史上最長3336日を記録したベルルスコーニ政権の終焉
11月12日の夜、ベルルスコーニ首相が、辞意表明に追い込まれ た。
ギリシャから始まった南欧州の金融危機がイタリアに飛び火し、一気に世界で7番目の経済大国の首相を退陣に追い込んだ外圧は共和制発足以来始めて、巨額の財政赤字を生み出しイタリアの国際信用イメージを外国にさらし、個人的数々のスキャンダルや政策対応の不備を批判された首相は8日、議会で過半数の支持を得られない世論を無視して2010年度の会計報告に関する法案の採決を強行した。はじめ首相は過半数巣の支持を信じていたが結果は思惑が大いにはずれ、与党の賛成票は308票、過半数に満たなく(法案は野党の棄権で成立)、辞職に追い込まれた。
同夜、首相は私邸を出て大統領官邸に向かう途中のピアッツア(広場)で喜びあう市民と首相に「ありがとう!」と、叫ぶ市民の異常な群集にもまれた。首相は “次期首相候補のモンティ元欧州委員経済学者との徹底的な交渉を行い私と私の企業グループに対して保証を与えてくれた!さらに、仮にデフォルトが起きた時、私の責任ではない” と最後まで私欲に満ちた声明だった。喜ぶ市民とは首相がやっと、辞めると表明したからだ。
ナポリターノ大統領を訪れた首相は、「EU連合が勧告した財政安定法案の成立を条件に辞任する」と表明した。
イタリア経団連や野党は、「対立、分裂している時ではない」と警告し、
議会で幅広い支持を得た緊急挙国一致政府の樹立を訴えていた。
現に10月の世論調査ではベルルスコーニ政権に対する憤慨を持っている人は ”かなり有り“ を含めると56,2%に達し、政権継続支持者は43,3%だった。 一方、救国政府設立の立役者は支持率90%を超えるナポリターノ大統領で、異常な共和国存亡の危機が大統領を駆り立てていた。
ベルルスコニーの黒・灰色の15年間を振り返る
* ベルルコーニは27歳で建設会社を設立、政界きっての大物で亡き社会党のクラクシを有力な友人に持、TV会社カナーレ5を設立。
* 1993年クラクシ首相がタンジェントポリの疑獄汚職で失職したとき、
フォルツア・イタリアを起し、政界入りする。TVの普及に伴いTV演出によって国政選挙に初当選。それらの背景は1993、1994年は第一次共和制の崩壊によって政界の大編成が行われた時期だ。カナレー5TVから颯爽と登場したベルルコーニは新しい顔の政治家であり、彼の大衆向けする研究されたTV演出した甘いマスクであったろう。つまり、政商となって大成功を収めた事業家ベルルスコニードリームであった。
第一党になり北部同盟、国民同盟と連立内閣を形成するが、北部同盟の脱落で始めての内閣は潰れる。
* 2001年の選挙選で 国営TVの人気番組 “ア・ポルタ・ア・ポルタ“ を私物化したと言われたTVショーで ”イタリア人との契約” を選挙公約する。内容は減税、雇用促進、大公共事業、年金の増額等を約束だったが、周知の通り約束は守られなかった。それでも、若者たちから支持されて2006年まで第二次ベルルスコーニ内閣が続いた。
* 1989年から今まで被告席に座る16裁判が始まる。内訳は恩赦で2件、無罪が4件、時効が5件、そしていまだに係争中進行形が3件となっている。内容は汚職が4件、自社の粉飾決算が6件、脱税が2件、政党への不正資金が1件、未成年者を買春が1件、その他が2件となっている。
これだけ汚名を着せられた現職宰相はイタリアの憲政でいまだに例を見ない。私利、私欲のために制定した法律は少なくとも20法以上を数えるが、この中には彼のTV局、4チャンネルの合法化がある。
2006年中道左派政権の勝利で旧国民同盟とのPDLの設立をしたが、2008年北部同盟に傾斜した為、国民同盟と決別した。
* 2008年以来、国会対策では94回の否決に会い51回の信任投票に訴えた。
このため大統領から再三再四の信任投票の要求に対して警告を受ける。
このように異常な彼の政治は灰色だったにも関わらずイタリアの政権トップに合計9年間、3336日間とイタリア共和国政治史最長を記録し君臨できた理由を問われる。その答えは彼に替わる指導者が不在、左派勢力は周知の通り、足の引っ張り合いを演じ、または、汚職の連続だった。
国家の解体を口癖に叫び続けたベルルスコーニ
2001年から2011年までに首相個人や取り巻き関係者を擁護する個人的な利益を呼び込む法律は22本を成立させ、内、3本は憲法違反で憲法裁判所から無効判決で失効、何れも、係争中の裁判は停止されると言う首相自身に係わる私的特権擁護法であり、それらはTV国営放送から1族が経営する企業グループの利益誘導に寄与した。加えて、司法権に対しては一貫した反共攻撃を展開した。
この間、中道左派政権が延べ6年半あったが、そして、リーダーは頻繁に変わり左翼は国会で全ての議席を失った。中道右派は一貫してベルルスコーニを頭に供えた。悪政と私利私欲に走ったベルルスコーニ政権であったが、彼に替わる有力な頭が居ないと言うのが選挙民の意識だった。この間、中道左派や左翼連合内では派閥、分裂が続き政治不信、“政治は誰がやっても同じ”と言う意識が選挙民を支配した。無政党支持者が第一党となり、拡大している。つまり、ベルルスコーニに代わる明確な政権担当者が存在していない。
ベルルスコーニ政権が迎える終焉直前の10月の世論調査を見ると、(政権が)まもなく終わるが38,5% で、未だ続くが23,8%(前年は39,6%)を占めてイタリアの未来を決めかねている事は10月の世論調査が如実に示している。
11月の世論調査は政権交代後直後に実施された結果である。
2011年10月・11月の世論調査結果
2011年 2010年 2009年 2009年 2008年
11 月 10月 9月 欧州議会選 国政選挙結果
PDL 自由国民 24,2% 26,1% 29,8% 35,3% 37,4%
Lega Nord 北部同盟 7,7 8,8 11,0 10,2 8,3
PLF 旧国民同盟 3,7 3,6 6,1 == ==
UDC 中道連合 10,4 7,5 6,3 6,5 5,6
PD 民主党 29,4 28,1 26,5 26,1 33,2
IDV価値あるイタリア 8,0 8,2 5,5 8,0 4,4
SEL 旧左翼連合 5,2 6,8 4,7 3,1 3,1**
Mov. 5 Stelle市民運動 4,6 4,3 3,6 == ==
その他・諸派* 6,8 6,6 6,5 10,8 8,0
ベルルスコーニ政府支持28,6 20,5 29,7 48,6 44,4***
モンテイ新政府支持 83,8% == == == ==
野党支持 === 20,5 23,0 26,5 19,8
参照;
* 2%未満の政党は省略
*国政選挙時は虹の左翼
* * * 2008年10月
上の世論調査の結果で判るようにPDLはー3,7、Lega N.はー2%。
この1年間に政府支持は約10ポイントも落としている。
一方、PDを中心に野党もほとんど伸びていない。
モンテイ救国内閣の誕生と任務
世界中がイタリアの奇跡蘇生期待して見守る中、13日にはナポリターノ大統領によって次期内閣の首相にモンティ元欧州委員経済学者が指名され16日は電撃的な4日間と言う速さで政治家抜きの学者、実務家、専門家からなる危機管理型の政府が誕生した。
モンテイ首相は「国民に血の出ない程度の窮乏をお願いし、現在享受している各種の特権、特典を廃し、息子たちや女性たちに仕事と将来に希望を与える経済成長と、国際信用回復に努力し、任期は2013年の春までとして、その後、再立候補しない。」と、上下両院で所信表明演説を行った。
上下両院で北部同盟と極右を除く全ての政党PDL,PD, FLI,UDC,AP,MPA、IDV 、左派系と右派系の中道中心大連合で新内閣支持を取り付けた。
両院議会の信任投票直後の世論調査の結果を見ると歴代内閣の中で今回のモンテイ内閣はダントツの信任を受けた。
新政権急務の改革課題
ここに新首相モンテイはイタリア政局の綱渡りの難しさを背負って、古くて何時も新しい歴代内閣が抱えた急務を要する再建経済政策の課題だと思われる。
1、年金改革: 年金受給を現行の62歳から67―70歳に引き上げる。
2、雇用; 公務員の移動、非正規雇用、解雇権、教育予算はこの10年間で70%も削減している見直し。
3、公社公団企業、国が保有する株式の民営化推進
4、専門職の既得権の特権を開放し
5、脱税との戦い: 脱付加価値税対策
6、国庫歳入金の見直し:固定資産税の復活で350億ユーロ増収、高額所得者への課税、優遇税の削減、宝くじの増収、8月以来毎月のように緊縮政策を追加を実施、更に今後の追加政策によって200-250億ユーロの国庫歳入を期待している。
今日現在早くも「これ以上の緊縮財政の再建案反対」が起きている。
18日には全国20の都市で学生が財政の削減に反対して集会を開き、ローマ、ミラノでは警官隊と衝突し、国会議員の経済的特権は維持されるべきと議員の歳費引き下げに反対している。新政権の前に険しい坂道が待ち構えているのは明らかだ。本当に挙国一致の政治が生まれるのかどうかまったく不明である。
しかし、やらねば、ナポリターノ大統領が言うようにイタリア国の崩壊に繋がりかねない危険性を秘めている。
イタリアの財政はどの程度厳しいのか
イタリア国債の利回りが急騰し、11月11 日には10年物の利回りは一時6.7%台半ばに上昇(価格は下落)し、財政運営上の「危険水域」とされる7%に迫っ た。イタリアの債務は対GDP120%と日本に継ぐ世界第2位の高さにある。しかし、単年度でみると、極端に厳しいわけではない。
国際通 貨基金(IMF)の予測では、2011年のイタリアの財政赤字は国内総生産(GDP)の4%。財政が比較的健全とされるオランダの3.8%よりやや高い が、フランスの5.9%より低い。またイタリアは国債利払いなどを除いた基礎的財政収支(プライマリーバランス)が黒字だ。
ユーロ圏で同収支が黒字なのはイタリアとドイツだけだ。
更に、イタリアは持ち家制度が極めて高く80%を超えると言う。人々は自分の家も持つ為に節約し貯金をする。このためこの国では日本に続いて貯蓄率が高く家計部門の純資産は8兆6000億ユーロ有り、国家債務残高の4倍を超 す。そして、イタリア国債の保有者は50%が国内であり、ギリシャやポルトガルのそれは80-90%が外国人が保有している事を考えれば、イタリアは格段に良い状況だ。経済は決してパニック状態ではない。新政府がこの経済危機を乗り切ればイタリアは復活する。
イタリア経済に弱点があっても政治情勢よりは格段に良好な状態にあると言える。
(完)

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