イタリア共和国憲法改正是非を問う国民投票結果
イタリア共和国家が民意を反映する民主主義施政を行使するための憲法改正を問う国民投票が2016年12月4日に実施された。 18歳から国政選挙権が有るイタリア人約5000万人の有権者、投票率は70%に近かった。結果は改正反対が60%、賛成は40%で、憲法改正は否決された。
前回の憲法改正是非の国民投票について
前回はベルルスコーニ政権時代の2005年末、当時の右派政権は憲法改正案を野党・中道左派勢力の反対を押し切って議会を通過させた。 改革案の中味は首相の権限を強化し議会の解散権を大統領から首相に移し、 保健や教育、警察などの権限を国から州 に委譲する内容であった。
2006年6月25-26日、憲法改革案を問う国民投票が行われ、 開票の結果、60%を超す反対で否決された。 否決された最大の理由は左派や労組が<市民の間に貧富の差や社会サービスの享受に格差が生じるから>。
2回の国民投票結果をどのように考えたらいいのか?
イタリア共和国憲法大改正是非を問う国民投票は過去2回実施された。
前回は2006年6月25-26日で経済危機を迎える前の右派政権下であった。
そして、今回は2016年12月4日であった。 結果は前回の否決投票が60%を超え、今回も同じく60%を超えている。
2回の国民投票結果で言える事はイタリア“市民”は 結局<プルラリズム=複数主義>の存続を選んだ。 つまり、権力が一方に集中することを嫌って権力の分散を支持した。
前回は首相府の権力強化に反対し、今回は立法府を一院化する事に反対
国内外の政治環境が今回は7年間も続いた経済危機の後に実施され、直前にアメリカ大統領選挙や6月には英国のEU離脱国民投票で、なぜ、米国や欧州の各国内でナショナルリズムとポピュリズムが伸張してきたのか?
日本の政治では一強自民党が支配する<あべ政治>に収斂されている。
日本国国家が外国に軍隊を派遣できるようになったとイタリアメデイア(日刊紙やTVニュース)が伝え、多くのイタリア人から説明を求められた日々を忘れない。
何故・・・? どうして・・・? 何が起きたの・・・?
今回の憲法改正是非の国民投票結果
世代別の内訳を見ると左%は憲法改正に賛成、右%は反対
18−29歳 39% 61%
30−44 31 69
45−54 33 67
55−64 46 54
65歳以上 54 46
全体平均 40 60
世代間のき裂社会が深厚
憲法改正是非の国民投票結果は年金生活者の高齢者層が憲法改正賛成を支持し、他の世代はすべて、反対、特に孤独の30代と言われる将来を担う年齢層は猛反対に廻った。
国民投票が実施された直前の世論調査によると世代間の対立が険しくなり親子関係に亀裂が入っている。
*「将来観について」世代別の内訳を見ると 左%は国内には期待できないので外国に移民して人生を築く、 右%は全く人生設計が出来ない、家庭も持てない
*18−24歳 53% 32%
25−34 73 62
35−44 63 60 45−54 58 52
55−64 55 57
65歳以上 40 57
** 若い世代の将来観は悲観論が圧倒的である。
左%は両親のよき時代を上回るチャンスが有る、
右%は両親のよき時代を上回るチャンスは無い
**18−24歳 39% 55%
25−34 21 63
35−44 35 65
45−54 38 58
55−64 64 64
65歳以上 71 62
今回のイタリア共和国憲法改正是非の国民投票結果を見ると日本社会を含めて世界が普遍的な現象を呈しているようにおもえる。
イタリア人の意識は・・・?
価値観が変わり現代社会の成長と安定に不可欠な「経済信用と社会信頼」の退化であろう。大多数の人たちが、自分や子どもたちに成功への機会が公平に与えられている事を感じなくなって現代社会は瓦解し始めた。 イタリア人の労働価値観とは、将来への希望を生み出すものだった。 経済成長はより多くのより良い仕事を生み出し、現役で働いている間は、 ほとんどの人の生活水準が上がり続け、老後の生活が保障された年金受給。 子どもの世代は自分たちよりも暮らし向きが上がっていく。 ところが「経済信用と社会信頼」の代わって現れてきた社会現象は、フルボ(ずるい)な不正、詐欺、キックバック、汚職、といった大小様々な破滅だ。 経済資源は生産するが、一部の富者に集中し貧富の差が大きくなり、 世代関係にき裂を生み、社会が<拝金主義>に走る傾向に変質しつつある。 つまり、グローバル化と技術革新が多くの人々から競争力を奪ってしまったことが原因だ。我々がやってきた仕事を、今や外国の低賃金労働者やコンピュータ制御の機械が、もっと安価に導いてしまったからだ。
ところで、今回の改憲特徴は現行制度の議会運営の行き詰まり解消を目的としていた。 国民投票で憲法改正案が可決されれば、イタリア上院は定数を100人に削減され、立法権を持たなくなる。 イタリア議会は通年制であるが数十年来、上下両院の間を法案が際限なく往復する状態で公務を妨げられてきた。 改憲はレンツイ氏に言わせれば「この国民投票で過去20年間の行き詰まり状態を打開させ、国家行政、司法、立法の効率化アップにつながるはずであった。」
今回の国民投票キャーンペンを追っていたら日を追うごとに反対派の声が強まった。 レンツィ政府が提案して否決された大きな原因は3つに分類される。
1、憲法問題を首相自身の進退責任化問題とした
2、国民の権利である上院議員の選出権を奪って新上院議員の選出基準が明示されなかった。
3、改正案が一つ、一つの案件を問うのではなく一括したワンセット、 パケット提案だった。レンツィ政府はもっと選挙民に対して丁寧に説明し一括ワンセットでなくグループ別に分けて提案すべきだったとおもう。 例えば、議会制度、大統領選挙制度、中央、州行政制度の区分と役割、というように改革項目別に国民投票に問う方が好かったのでは??。 つまり、市民にとっては改正賛成項目もあったと解釈している。
さらに、政府提案の姿勢がはじめから悪かった。 もし、否決されたら<辞任する>と宣言した及び腰で結果的にレンツィ政権の信任投票に繋がってしまった。
1000日間続いたレンツィ政権の評価
成果は第一に米国やEU連合国では政治評価が高かった。
11月17日の日刊紙レプッブリカは政権の成果と未達成課題を掲載している。
成果は
労働法の改正、
学校教育法改正、
第一持ち家家屋税廃止、
市民平等法(同性婚と事実婚)
選挙法改正である。
改革未達成は
司法改革、
個人所得税法改革、
1000カ所の保育園新設、
南部開発計画、
国家歳出費の見直し等を挙げている。
首相レンツィは来年の予算案を成立させた翌日、引責辞任した。 反対の否決をリードしたイタリアのポピュリズム五つ星運動と右派政党は断固として、 即、総選挙を要求して新政府ジェンテイローニの信任投票には議場放棄し対応した。
前回もレポートしたように五つ星運動には政策綱領と財政政策が無い。
6月の地方選挙で五つ星運動は既成政党との違いを強調し、「オネスタ!オネスタ(誠実・正当性の意)!」を連呼して唯一、汚染されていない清廉さを前面に押し出して当選した「五つ星運動」ローマの弁護士出身の女性・ラッジ市長だが、市長の「右腕」とされる側近が12月16日、汚職の疑いで逮捕された。 ローマ市の行政参事で人事部門の責任者であったが、不動産取引に絡み、違法な金銭を受け取った疑いが持たれている。
ロッタマトーレ(老害選別者)としてデヴィユしたイタリア政治史上39歳という最年少者首相レンツィは<良く遣った>と私は評価する。
上院で過半数を有さない宰相として多数派工作はやもえなかった。
具体的成果としては以下に記す2017年国家予算執行が鮮明であろう。 *新生児誕生の父親には二日間の休暇が義務付けられた
*2016年に誕生した新生児は1000ユーロの育児ボーナス支給
*2017と2018年はベビーシター料が支給される
*1999年生まれの子供には500ユーロの手当支給
*新生児誕生支援基金の新設立(家族クレジット)
*低額年金者受給者(1004ユーロ以下)にはボーナス14か月目(336〜655ユーロ)が支給される(年金受給通年は12+1=13か月)
*63歳での前倒し年金受給資格制度の導入
その他に固定資産税(第一持ち家)の廃止や非雇用者に対する月額80ユーロの税戻し等々がある。
雇用制度について労組CGILから批判が出ているが10万人の教員常傭採用を含む一時雇から常雇に変わった勤労者数は確実に増えている。
*今年だけで17万人を超える難民外国人を受け入れ、国内の外国人は150万を超え市町村の学校によっては一クラスの半分以上が外国人が占めて語学教育で問題になっている。
新政府の任務 上下両院は新政府信任ジェンテイローニ政権を発足させたが、野党からレンツィ政権の焼き直し政府と攻撃されている。しかし、まずは銀行危機問題を乗り切り、市民の政治要求意識がユーロ離脱に関する国民投票の実施を提案するポピュリスト五つ星運動と外国人排斥の右翼勢力に期待している目から大局的な将来展望を開く目に導かねばならない。
12月7日付けのファイナンシャル・タイムス紙は
<イタリア、英のEU離脱以上の脅威>の見出しでその背景を次のように伝えている。
「イタリアの有権者が現状に幻滅しているのは、決して意外ではない。イタリアは2008年の金融危機以降、工業生産高を少なくとも25%失った。若年失業率は40%に迫る水準にある。驚くまでもなく、多くのイタリア人は通貨ユーロの出現を恐慌に近い不況と結びつけている。実際、一部のエコノミストは、ユーロはイタリアの競争力に破滅的な影響を与え、国から通貨切り下げの手段を奪い、債務負担を重くするデフレ環境を生み出したと考えている。 この暗い背景を考えると、レンツィ氏はイタリアの伝統的な親欧州の立場を代表する最後のイタリア首相の一人となる可能性がある。 最近では、レンツィ氏でさえ、ブリュッセルたたきに走るようになり、イタリアの海岸に上陸する何十万人もの難民に対処するための支援をEUが与えてくれないことへの無理からぬ幻滅感を表明している。またレンツィ氏率いる政府は、ベルリンとブリュッセルで処方された経済緊縮策にもいら立っていた。」
イタリアとEUの関係 イタリアはEUの創設メンバー6カ国の1つで英国とは違う。 1957年に調印されたローマ条約欧州経済共同体(EEC)設立署名国家だ。 イタリア人はEU主要加盟国の中で伝統的に最も熱心な親欧州派だった。 だが、長期的な経済停滞、ユーロ危機、移民への不安を受けてEUに対する態度が変わりつつある。

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