折角なんで新ネタもいってみましょうか。

Heliocentric Worlds, Vol. 3(ESP DISK)
目下Sun Raのアルバムとしては最新リリースで、
The Heliocentric Worlds of Sun Ra, Vol. 2と同一セッションという触れ込みです。
しかし、明らかにこれ、Vol.2と同一セッションなのは1曲目だけですよ。あとは編成から言ってVol.1のセッションからのものでしょう。Vol.2にはいないはずのトロンボーンが入っている4曲目と5曲目は確実だし、2・3曲目も御大のBass MarimbaやElectric Celesteが聴かれることからしてVol.1セッションと見るのが妥当でしょう。各楽器の定位も、1曲目とそれ以降では違います。
しかし肝心のライナーが不十分で、資料的な価値が全くない。90年代初頭のESP盤再発のときの分厚いブックレットとはうって変わってペラペラの二つ折りジャケット、おまけに表4は広告ときている。やる気あんのか、ESP!?
そのライナーには"The Good Doctor"なる人物が音源を持ち込んだ、とあります。うーむ、胡散臭い。
Sun Raの身内であることは間違いないでしょうが、多分実名を明かせない金銭的・政治的な事情があるのでしょう。ま、よくある話ですな。
こんな怪しいアルバムですが、内容はバッチリです。
まず、音が良い。ここ10年のマスタリング技術の進歩が伺われます。
1曲目の
Intercosmosisは
John Gilmore、
Pat Patrick、
Marshall Allenの闘魂三銃士from Outer Spaceが延々とソロを交換し合うフリーキーな長尺曲。御大のパーカッシヴなピアノが素晴らしいです。バスクラ、トランペット、パーカッションは味付け程度。
Ronnie Boykinsのベースがいい味だしております。60年代の
Arkestraはこの人あってこそ、と言っていいくらいの重要人物ですが、自作曲のクレジットを巡って御大と対立、バンドを離れてしまいます。ESPから
リーダーアルバムを出してます。1980年、ニューヨークで死去。合掌。
しかしなんですな、Gilmoreのテナーって、音が軽いですよね。高音部を多用するし。Allenのアルトの方がよっぽど太い音をしてる。フリークトーンを連発されるともうどっちがどっちだか判らなくなります。でもやはりGilmoreの方が整然としたフレージングですけどね。
これ以降は小品が続きます。
2曲目は
Mythology Metamorphosis。ここからドラムセットが登場。他のメンバーの持ち替えのパーカッションも加わりリズミックに行くかと思いきや、御大のベースマリンバとAllenのオーボエが立ち現れて一気に怪しいムード。最後はBoykinsのベースソロでシメ。
3曲目の
Heliocentric Worldsでは妙にたどたどしい4ビートをバックに御大のピアノとチェレスタが交差する神秘的で美しい曲。ティンパニはGilmore、シンバルはAllenか?
これまた醜くくも美しいチェレスタのイントロに導かれて4曲目の
World Worldsに突入。ここブラスセクションも登場。トロンボーンのソロは
Teddy Nanceか。Allenお得意のピッコロも聴けます。不安定なコード進行ながら調性感は一番はっきりしていて聴きやすい曲ですね。不協和音の地雷原を縫ってGilmoreが見事なソロを聴かせます。セクションでは、トランペットの
Chris Capersもいい仕事してます。この人、そんなに目立った活躍はないけれど、70年代と90年代にそれぞれArkestraに一時復帰して作品を残してます。
最後は疾走フリージャズ
Interplanetary Travelersで大団円。やっぱこういうのがないといけませんね。燃えます。「ああ、俺はフリージャズが好きなんだなあ」と再認識されました。
クレジットの怪しさはともかく、ジャケも美しいし、収録時間が短いながらも濃い内容なので、フリージャズが好きな人は買いじゃないでしょうか。チェレスタの響きがロックシコードにも通じるところがあるので、
"Cosmos"あたりが好きな人でもイケるかも。

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