Space Is The Placeの少し後に録音されたもののオクラ入りになっていた2枚のアルバムの発掘2in1。

Great Lost Sun Ra Albums: Cymbals & Crystal Spears
1973年、NYのVariety Recording Studioでの録音。
この頃、SaturnとImpulse!の間に契約が結ばれたらしく、数枚の旧譜といくつかの新録のマスターテープがImpulse!に渡されました。しかし、リリースされた新譜は
Pathways To Unknown Worldsと
Astro Black(未CD化)だけで、CymbalsとCrystal Spearsの2枚はEVIDENCEがCD化するまでは日の目を見ることはありませんでした。理由は不明ですが、まあ多分「売れない」と判断されてしまったんではないでしょうかね。
かといってそんなに悪い内容でもないんですよ、これが。
Space Is The Placeのような解り易さはありませんが、なかなか渋い演奏です。
1枚目は
Cymbals。これは完全な未発表ではなく、1曲目の
The World Of The Invisible、3曲目
The Order Of The Pharaonic Jestersと5曲目
Land Of The Day Starは
Deep Purple(Saturn)というアルバムで発表済み。
Deep Purple自体は未CD化ですが、残りの曲は
Sound Sun Pleasure(EVIDENCE)にボーナストラックとして収録されており簡単に聴けます(Sound Sun Pleasureは個人的に大名盤だと思っているので、近日中にレビューしますね)。
このアルバムは全曲少人数のコンボでの演奏で占められていて、珍しく
Marshall Allenは不参加です。
The World Of The Invisibleこそインプロですが、あとは全曲作曲されたマテリアル。聴き物はなんと言っても2曲目の長尺blues、
Thoughts Under A Dark Blue Lightの
John Gilmoreのソロでしょう。これだけ長いGilmoreのソロを聴けるアルバムはそんなにないはず。オーソドックスに歌ったりフラジオで暴れたり色々やっていて飽きずに聴けます。この曲と4曲目
The Mystery Of Two(後に
Cosmosで再演)では
Akh Tal Ebahのソロも大きくフィーチャーされています。これまた珍しい。
Robert L.Campbell教授のライナーによれば、彼は精神の病で77年に
Arkestraを去ったそうです(80年に死去)。最後は
Land Of The Day Starの
Danny Davisの短いながら濃密なソロでシメ。彼のオーソドックスなプレイもまた貴重です。
そして特筆すべきは全曲に渡ってウネウネとうねりまくる
Ronnie Boykinsのぶっといベースラインでしょう。カッコイイです。
ところで、
The Earthly Recordings of Sun Ra 2nd Editionには御大の楽器としてMini Moogがクレジットされてますが、同じCampbell教授が監修したCDのブックレットにはクレジットされてません。私は1曲目のノイジーなソロはMoogだと思っていたんですが、どうもオルガンみたいですね。どうやって弾いているんでしょうか。よくわからないけど凄いなあ。
そして2枚目、
Crystal Spears。こちらは12人編成の通常営業(でも、
The Earthly Recordings of Sun Ra 2nd Editionには全員が参加している曲はなく、3曲目の11人が最大と書いてあります)。Allenも主にオーボエで大活躍します。
Cymbalsとは対照的に、こちらは作曲されたテーマがある曲は一曲のみで残りはインプロです。
Heliocentric Worldsあたりに近いスタイルで、74年という録音時期を考えると古くさい感じは否めません(Cymbalsの1曲目もしかり)。この辺がお蔵入りになった理由かもしれませんね。
演奏自体は悪くないのですが、インプロ物の明確な善し悪しを文章で表現するのは難しいですね。というわけで、やはり聴き物はGilmoreのソロということになってしまいます。4曲目の
Sunrise In The Western Skyは20分越えの大曲で、オープニングこそAllenのオーボエで始まりますが、あとは延々Gilmoreのソロです。CymbalsのThoughts Under A Dark Blue Lightよりさらに長い!こちらはフリーフォームなので、聴き比べてみると楽しいです。
あと、The Earthly Recordingsによるとこのアルバムのマスターは2種類あって、
Alton Abraham(Saturn代表)所有の物と
Seth Markowなる人物(ジャズDJ?)の所有しているテープには編集に違いがあるそうです。一番の相違点は、Markowのテープには御大のキーボードが一部ダビングされていることと、Abrahamの方にはもう一曲、1:44ほどの小品(タイトル不明)が収録されていること。CDには該当個所にキーボードが確かに入っているので、Markow所有のテープか、あるいはそのコピー元がマスターとして採用されているようです。ダビングがされている方が完成形であると考えるのは当然ですが、CDのプロデュースはAbrahamなんだし、もう一曲入れてくれてもいいのにって思ってしまいますね。
この2枚のアルバムは両方とも4ch盤として作られていたのですが、CD化にあたり入念に2chステレオミックス及びマスタリングされていて、非常に音が良いです。それだけでも聴く価値有りです。初心者向けではありませんが、Sun Ra道楽の泥沼に片足を突っ込みたければ買うべし。

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