長ーい抱擁、熱い接吻。
繰り返される別れの儀式。
彼女 「もう、いってしまうのね?」
彼氏 「うん、もう時間だからね」
彼女 「今度はいつ会えるのかしら?」
彼氏 「仕事が済んだら、飛んで帰って来るよ」
彼女 「本当?うれしいワ」
そして、またも繰り返される別れの儀式。
彼氏 「もう本当に行かないと遅れちゃう」
彼女 「そうね、悲しいけどしょうがないわ。
気を付けてね。。。」
見えない力に、引き離されるように別れる2人。
彼氏は、セキュリティゲートへと歩いて行く。
何度も、何度も振り返りながら。
そこには、恐ーい顔をしたオバサンがいて、
搭乗者のIDと搭乗券をチェックしている。
彼氏は突然、現実の世界に突き落とされた
ような顔でうろたえている。
かばんの中にあるはずのIDと搭乗券が見つからないのだ。
彼氏の後ろには列が出来始め、
恐ーい顔をしたおばさんは
ますます恐ーい顔になってくる。
彼氏は探しながらも時折、
彼女を振り返っては笑顔を振りまいている。
やっとのことで見つけた
彼氏はどうだと言わんばかりに、彼女を見る。
IDと搭乗券は、手にしっかりと
握り締められていたのだった。
彼女 「。。。。。。。。」
彼氏は金属探知機へと進んで行った。
何故かわからないが、何度もくぐらされている。
彼氏はその間も彼女の方を見ては笑顔を向けている。
きっと、「僕は大丈夫だ」と言いたいのだろう。
彼女 「。。。。。。。。」
終いには、履いている靴を脱がされた。
靴を脱がされて歩く姿の何と情けないことか。
しかし、彼氏は何とも感じていないようだ。
金属探知機が済んだところで、
彼氏は彼女に向かって「愛してるよ」
とばかり手を振っている。
彼女 「。。。。。。。。」
そして今度は、荷物検査の係員に何やら言われている。
良く見るとかばんの中味を全部テーブルの上に
出されて調べられている。
彼氏と係員の会話が繰り返され、
1本のミネラルウオーターが見つかった。
彼氏は、そら見てごらん!
僕は変なものなんか、持っていないんだから!
とでもいいたげに、
彼女に向けてVサインなんか送っている。
彼女 「。。。。。。。。。」
彼女の顔の表情からは、何も読み取ることできない。
ただ、さっきまであんなに潤んでいた瞳は
もう、カラカラに乾いていた。

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