この物語は私とタマリンドたまが、シタール弾き語りをやっていた時に私が創った最後の物語りですが、結局一度も公演はしませんでした。
仏陀の在世当時を背景に仏陀と親交の有った人物に焦点を当てて、一つの生き様を物語にしました。
13年前に創ったものです。短い物語ですが2編に分けて掲載します。
<大いなる出会い 前編>
ユキオ
乾ききった風は、一筋に走る道を白っぽい土ぼこりで霞ませていた。
その道を一人の修行者 カルマーラはゆっくりと歩いていた。
雨は三ヶ月も降っていなかった。
カルマーラの姿は埃にまみれ、着ている衣は擦り切れていた。
故郷の村を離れ、修行の旅に出て、十数年の歳月が流れていた。
ある時はヒマラヤの山中に、またある時はガンガー(注1)を越えて
見知らぬ国まで遍歴流浪した。
カルマーラの願いは、真のグル(注2)に出会い
自らの迷いを断ち切ることだった。
「生きることは容易い。 しかし、生きる そのものの意味を知らない私は死んでいるも同じだ」
多くのグルと呼ばれる人たちと出会ったが、誰一人、カルマーラの心を満たすものはなかった。
カルマーラは大きな木の下に腰を下ろすと、静かに目を閉じ黙想した。
しばらく時は流れ、カルマーラは喉の渇きを覚えた。
ちょうどその時、一人の出家者が器を差し出した。
「水を飲まれますか」
渇ききった喉には、まさに甘露の水であった。
カルマーラは礼を言うと
「私はカルマーラといいます」
「私はゴータマ(注3)です」
二人は互いに挨拶をすませると
沈黙の中に身を置いた。
カルマーラの心に深い静寂が広がり、
そこには、今まで一度として味わったことのない世界があった。
いつの間にか陽が沈み、残光がゴータマとカルマーラを照らし出した。
ゴータマは立ち上がると
「カルマーラよ。求めるものは求め得ない。沈黙の中にすべてがある。
カルマーラよ、今 あなたは 水を飲んだのだ。再び乾くことは無い」
その言葉を残して、静かに去っていった。
カルマーラの目に、涙が溢れた。
心を満たそうとした欲
真理を知ろうとした欲が
深い沈黙の中で消えていった。
古い井戸は枯れ
新しい泉が湧き出した。
カルマーラは真の再生を得た。
注1 ガンジス河
注2 精神的指導者
注3 仏陀の成道前の名前


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