「珈琲」
今日は仕事が休みだったので
ミルク渦巻くコーヒーの中に飛び込んできました
世界中のコーヒーはつながっています
カップの中からのぞく いろんな瞬間を見たい
私が今朝コーヒーの中を泳いで見てきたのは
渋谷センター街に良く出没していた万札じいさんです
センター街のちょうど谷底のあたりに
マイナーだけど結構繁盛していたハンバーガー屋があって
そこには週に2−3回、必ず旧札の一万円でコーヒーを一杯買っていく
おじいさんがいたそうです
人生長いからねぇ
お札もいぶし銀だねぇなんて厨房の人たちは
ほほえましいと笑ってたらしいけど
おじいさんはきっと若い頃銀行強盗をしたのさ
ここじゃ永遠にばれない
秘密のお札のナンバー
東京・渋谷は谷というだけあって
あの谷は 都会の魂の吹き溜まり
いろんな浮かばれないものがあって
お札の出所など 人の行く先など 誰も探さない街
おじいさん
その珈琲はどんな味ですか
苦いですかそれとも高笑いが止まらないほどの甘さですか
いつだって勝利はおいしいのですか
残念な味はしませんか
私がアメリカにいたころ
日本人の私だけが怪しまれないからと
秘密のものを下着に隠して逃げました
何年かして お水が蒸発してなくなるかのように
その秘密も風化して ただのガラクタにしか見えませんで
もう先週捨てちゃったよね
秘密にも鮮度があって
それが腐ればただの退屈が残る
珈琲一口飲み込めば
労働者階級の味がする
苦く まずくもおいしい気がして
毎日手にとってしまうんです
おじいさん そのコーヒーはどんな味ですか
水面から顔出して
聞きたいこと聞かず
私は帰るコーヒーの奥深く

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