太宰治の作品に「グッド・バイ」という小説がある。
10人くらい愛人がいる超モテ男が主人公で、
女関係を整理しようと、超美人の女友達についてきてもらって
「こいつ、僕の奥さんなんだ」って紹介して
すべての女性にショックをうけさせ、全員間接的にうまく振っていく話だ。
手を下さずして別れるみたいな。
そしてラストは・・・・・・・・・・!
無い。
この作品を書いてる途中で太宰が死んでしまったのだ。
だからラストは永遠に謎のままだ。
太宰は心中したって言われてるけど、東條は
女に無理やり殺された(一緒に心中させられた)って説に一票だな。
それはさておき、
そのラスト、あーもうこれからどうなるんじゃああで
死なれたから、続きが気になってしょうがなかった。
そのまま大学生になって、
研究発表の授業で運よく友達が目一杯調べてきてくれた。
墨田ユキ(みんな知ってる?)というセクシータレントに
似た友達だったので、彼女の顔ばかり見ていたが
このラストに関する記述だけ、はっきりと覚えている。
太宰の計画では、
全員後腐れなく振ったところで
もっとも愛していた奥さんに「グッド・バイ」されてしまうという
オチで終わるそうだった。
よくある皮肉な話だ。
よくある よくあるけど、失恋のなかではかなり
つらい位置にある話だと思う。
ああ、本当に調子乗ってるとロクなこたないね
卒業してから大分たって、恥ずかしながら
主人公と同じ気持ちになったこともあった。
この主人公は太宰自身をモデルにしたと
言われているだけあって、主人公にみじめなオチが皮肉屋の太宰らしい。
昔、ある恋人と別れた。
その恋人は、すごく私を愛していてくれたのに、
自分はいつもよそを向いてばかりで
しょっちゅう浮気しては彼を泣かせていた。
挙句の果てには他の男に走った。他の恋人を作った。
だってオマエからきたんだろ、
オマエがモーレツアタックしてきたんだろ
しらねー!
調子に乗って数年が過ぎた。
偶然、彼と再会した。
彼は結婚していた。
他のどの元彼が結婚したというニュースよりも、
私は猛烈なショックを受けて不覚にも目の前で少し泣いてしまった。
「・・・・・おめでとう」
いつまでも自分を好きでいてくれると思っていた。
あんなにわたしに夢中だったはずなのに
そんな私もあの滑稽な主人公といっしょね。
なんて終わる今日の日記だと思ったかい?
そこにはまだ続きがあった。
彼は過去私に泣かされたぶん、私がショックを受けたのが
相当気持ちよかったのだろう。
そこで終わればよかった。
私は、よくある皮肉な恋愛小説の主人公でいられた。
もうさぁー
とカフェで女友達に話せるネタが増えただけだった。
恋愛小説は、基本、若い男女の物語。
ハッピーエンドだったり。
悲恋だったり。
だけど、もうちょっと長く生きると、
その「続き」があったりする。
そう。あれから長いときを経て、
私はその後何度かその幸せになった彼に偶然会うのである。
最初私が泣いたのがよほど気持ちよかったのか、
会うたびごとにやたら「僕は幸せ、僕は子供もいて幸せ、
君は所詮その浮き草家業でがんばってくれたまえ」的なアピールを
しつっこくされたんです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そりゃ最初の一回は昔彼にかわいそうなことしちゃったなぁとか
夜も一人でワンワン泣いたけど・・・・・・・
そう何度もアピールされるとねぇ・・・・・
彼がほんとにステキだったら、そもそも他に目移りするだろうか?
彼にほんとに魅力があったら、浮気なんてしただろうか?
私は、彼と別れたあとに、猛烈な恋に落ち、
5年間、ただの一度も浮気しなかった。壮絶な一途さだった。
幸せアピール彼は、
「あのときは自分が東條に惚れすぎて足元みられた」
と思っていたようだが、その猛烈に大好きだった彼も、
すっごく私を愛してくれた。
俺だけがそんなに悪かったのかなぁ
なんて、図々しい考えまで浮かんできてしまったのです。
そこまでしつっこくアピールしなければ
私はただの滑稽な女で済んだのに。
っていうかそこまでの異常アピールって
オマエほんとに幸せなんか?という気すら・・・
自分がほんとに幸せなときの態度と
彼の「俺いま幸せだもんね!まいったか」
的な態度はとってもズレを感じる。
なんていうか
最初はよくある恋愛の話だったわけだけど。
自分をいつまでも好きでいるはずの男が結婚してショックうける
みじめな自分。
長く生きてると、そのまた続きもあったりするんだなって思った。
さらに長く生きると、ここに死別とか
ボケるとかそういう単語が入ってくるのだなと思った
寝入り前の自分。

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