2010/10/21

ブラッド・メルドーは素朴なピアノマンだ・・・  木曜:Jazz & Classic Library


ピアノで個性を出すというのは簡単なようでいて実に難しい。
ヴィブラフォン奏者の僕が言うのも変だけど。。

個性というものを無くしてしまったら、わざわざお金を出してCDを買いたくなったり、同じくお金を払って生演奏を見てみたくなったりはしない。
だから世の中に何千万人いるかわからないプロと呼ばれるピアニストの、どこを「個性」としてリスペクトするかを一口で言い表わすのは難しい。

「音楽」が個性であるピアニスト。
奏でる曲、つまりはオリジナル作品という作曲センスに長けたピアニストがこれにあたる。
しかし、これだとジャズばかりではない。
僕がココで取り上げているのはジャズにまつわる音楽を中心とするので作曲で完結してしまったピアニストはクラシックを除いて含まれない。

「音色」が個性であるピアニスト。
どんな音楽を奏でても「音色」の良いピアニストは聞ける。いや、ピアノに限らずどんな楽器を奏でる演奏者でも、まずはちゃんと楽器を鳴らせるプレーヤーでなければ聴く気になれない。いくら上手なフレーズを奏でようと、いくらキャッチーなメロディーを作ろうとも、楽器をちゃんと鳴らせないプレーヤーの音楽は聞かない。
音の仕組みや形は誰でも真似できる。
しかし、音楽の全体の中でかなりの部分をしめる「音色」は一晩や二晩の練習では真似できないものだからだ。

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昨夜の市川秀男(p)Trio+赤松敏弘(vib) w/上野哲郎(b)二本柳守(ds)@横浜“エアジン”の一コマ
(僕は降り番の曲なので気楽に写真なんか撮ってられるわけだが・・・)

日本では、この市川秀男さんが飛びぬけて「音楽」と「音色」で個性を発揮している。
いつもこのバンドを聴いて思うのだけど、1970年代から変わらぬ姿勢で音楽に取り組む市川さんには脱帽だ。常に「新鮮な出来事」を音楽で求めている。

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へえーっ(エアジンの控え席の壁に貼られていた。誰かが面白ネタを見つけては持って来る)

昨夜は(エイペック)Asia Pacific Economic Cooperationの予行演習なのか夕方からヘリコプターが飛び交い帰りの時間には街中にパトカーが溢れて物々しい横浜だったけど、市川さんの音楽の余韻はそういう上っ面の不可解な事を打ち消してくれるほど痛快だった。

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譜面だって実に簡素。しかしこの中に閉じ込められている音宇宙をキャッチ出来ないと音は出せない

さて、

ピアニストとして、ブラッド・メルドーを個性的と形容するのは簡単な事なのだけど、実はとても「素朴」なんじゃないかと密かに思っている一人だ。


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『ELEGIAC CYCLE/Brad Mehldau』(warner bros/1999年)

クラシックで管弦楽(オーケストラと呼ぶよりもこの方が似合っていると思う)が好きな人に、「ラヴェルでもドビュッシーでも管弦楽で聴くよりもピアノで聴く方が好きなんだよね」と言うと怪訝な顔をされる事がある。

ナニ? あの管弦楽のカラフルなアンサンブルを君は嫌いと言うのか!?

はい。嫌いというのではなく、ピアノで聴いたほうがずっと心の中に入ってくるタイプの作曲家と、例えばストラビンスキーのようにオーケストラで聴かないとピンと来ない作曲家がいる、というだけなんです。

この境目はなかなか見えにくいのだけど、きっと僕が言わんとする事を理解してくれる人もいると思う。

ジャズでもそれは同じ事が言えて、ビッグバンドとコンボ、あるいはデュオやソロといった編成で聴くのを選びたい音楽がある。

決してジョージ・ラッセルをピアノソロでは聴きたくないし、キース・ジャレットをビッグバンドで聴きたいと思った事もない。

ただ、ピアノという楽器の響きは特別で、奏でるプレーヤーによってはバンドやコンボでは表わし切れない音をピアノ一台だと完璧に表現出来る場合がある。
それは僕がピアノという楽器を好きだからかもしれないけれど。

ブラッド・メルドーのこのアルバムは「ソロ」集だ。

一曲目“Bard”がアルバム全体のキーワードとなっているところから、まるで推理小説でも読むような気分で聴くといいアルバムだ。
Bard=吟遊詩人という意味だけど、メルドーの名前のスペルをアナグラム(Brad→Bard)した意も含まれているのかもしれない。そんな風にいろんな推理をしたくなる音楽。それがこのアルバムの最大の魅力だ。

物憂げな愛らしいメロディーが突然の転調で行き先を一瞬見失ってしまうかに聞こえつつも新しい調への移行が準備されている事が数小節の内にわかると、もうそこからは安心して、この、ちょっぴり優柔不断な道先案内人に進路を任せて聴き進むといい。

二曲目“Resignation”はクラシックの小品のようなアルペジオに埋もれつつも優美な展開を向かえるメロディーが実にロマンチック。

この辺りで、ブラッド・メルドーというピアニストが、かつてのチック・コリアやキース・ジャレットとはまったく別次元でピアノ・ソロを行っている事に気付くだろう。

メルドーはこれまでのジャズピアニストの誰よりもクラシックの香りを漂わせるピアニストだ。
それも表面的にクラシックっぽい事をするだけのピアニストではなく、ニュートラルな状態で音を紡ぎ出しつつ、そのサウンドにはジャズの方法論を飛び越えた衝動的な音を自己のオリジナリティーとして確立した姿がある。
これは凄い事だ。
ピアニストとしての技量がケタ外れに優れていなければ、つまり最初に述べた「音色」が備わっているからこそ「ハハハ、、、」と笑い飛ばされてしまうようなギリギリの線を行ったり来たり出来るのだ。

続く“Memory's Tricks”では並はずれた左右の手がバラバラに独立した表現力を持つ技量をフルに活用したアカデミックな表現。しかし、これをジャズのコードに当てはめると実にシンプルなコード進行がベースとなっているわけで、ある意味でルネッサンスやバロックといった音楽の核を応用したトリックとも解釈出来るから面白い。

“Elegy for willam burroughs and allen ginsberg”はオーソドックスなジャズ、あるいは感傷的なセロニアス・モンクといった具合。しかし、聴き進む内にこの素朴な曲の中にメルドーの本音が聞こえたような気がする。

そのまま連続するかのように“Lament for linus”へと。サウンドは感傷的さを増し、やがて祈る様に終わる。

まるで調子外れのピクニックのような躍動を聴かせる“Trailer park ghost”。
この辺りになるとクラシックの印象派やフランス近代以降のピアノ小品集のような表現でインプロが展開される。

“Goodbye storyteller(for Fred Myrow)”はリリカルでロマンチックな表現。ピアノという楽器が持つ内向的な美学を見事に表現し切っていると思う。

さてさて、そろそろ謎解きは最終段階に入ったかな。そんな場面転換を促すかのような“Ruckblick”。
メルドーの作る曲は理論的だ。
聴く耳には衝動的であっても決して曲は衝動的に作られていない。
頻発する転調も、通常の曲がスコアを左から右へと一方通行するのに対して、ある部分は先に数小節先の転回(展開)を見越して逆算している。つまりある部分ではスコアを一瞬右から左に逆送するとそこに「正解」が待ち受けている、といった具合で、これはクラシックの作曲家の発想に近い。

ジャズの世界で、この逆送の発想による展開を取り込んでいる音楽家は少ない。

それはとてもリスキーだからだ。

通常、ジャズは左から右へと展開して行く音楽であり、その左から右への展開の発想にジャズメンは命をかけている。
チャーリー・パーカーしかり、ジョン・コルトレーンしかり、ビル・エバンスしかり、キース・ジャレットしかり、チック・コリアしかり、ハービー・ハンコックしかり・・・・・

そんなジャズの習わしの中に忽然と現れた左から右への展開をも組み替えるトリックの名人、ブラッド・メルドー。
その全ての発想が、最終曲“The Bard Returns”に集約されている。
そう、このアルバムの最初に演奏されていた“Bard”に戻ってきたのだ。

リリカルなメロディーが突然突拍子もない変な音に飛んだ瞬間、それこそがメルドーの仕掛けたトリック。
「おや?」と思った次の瞬間には新しい調の中でその音が生き生きと輝いている。
そして、再び同じメロディーを通過する頃には、すっかりその突拍子もないメロディーは、何百年も前から我々の前で自然発生的に存在していたかのような錯覚に誘導され、安心して通り過ぎて行く。

音楽でトリックをやるとは、なんて奴だ!

その構造に気付きながら聴くと、メルドーは実に素朴な音を俗的なジャズの味付けを経由しないで表現出来る数少ないピアニストである事がわかってくる。

この発想は複雑でもなんでもなく、俗的な音の加工に手を染めていないだけなのだ。
だから「聴きやすく」なんて手立てはどこにもないのである。

この音の先に何かがある、ただそれだけを楽しむ、お薦めのアルバム。
ただ弾けるだけのピアニストでは、これだけの余韻は残せないのだ。


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