2006/9/7

久し振りにグッときた・・・・・・・・ENIGMA2  木曜:Jazz & Classic Library

1994年のある冬の朝6時過ぎ。
目黒の吉田さんのスタジオにこもって徹夜の録音を終え、ようやく寝むそうな太陽が昇った朝靄漂う川越街道を自宅(当時)に向かって車で走っていた時の事だった。

この頃はほぼ毎日深夜に新曲を書き、ライブの隙間にベーシックなオケを録音しては深夜スタジオにこもってヴィブラフォンやピアノといった生楽器をオーバーダブし、スタジオ配給用のPVやコマーシャル、ジングルなどのサウンドエフェクト集を録音していた。バブルの後遺症があるとは言え、通常の時間帯は誰もが忙しいのでエンジニアもミュージシャンも空いている深夜の時間帯にスタジオを自由に使って良し、という許可をもらっていたのでした。恐らくトータルで100曲近くの作業をしたと思う。

機材のトラブルで途中何時間か中断した録音のラフミックスを聞きながら走っていたんだけど、サウンド・エフェクト曲だから短く20分もすれば終わってしまう。この頃はヴィブラフォンのマレットを綿巻きのマレットと毛糸巻きのマレットの両方を試していたのでテイクは2つずつ記録していた。だから車内には同じ曲が2回ずつ流れるのだ。シーケンサーと同期したサウンドが多かったので機械の音を一晩中聴いていると、かなり耳が疲れていた。おまけに同じ曲が2回ずつ流れてくるのだから・・・・・まぁ、飽きるわな(笑)

さて、そろそろ自宅まであと少し、というところで車中音源をFMに切替えた。

その時、突然流れてきたのがコレ
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『the CROSS of changes/ENIGMA2』(Virgin/1994年)

流れていたのはこの中の“Return To Innocence”。
疲れ切った頭に何のストレスもなくストーレートに入ってくるものだから、もう1分もすれば自宅というのにそのまま車を走らせて近所を一周して最後まで聴いた。

これは・・・・いいゾ

しかし普段ロックを聴いているわけでもないので、これが誰だかさっぱりわかんない。
即J-WAVEに電話して聞いたら「エニグマ2」との返答。

えにぐま?
ちょっと僕の米国生まれの文字変換の得意なMac君に聞いてみましょう。

絵に具間、、餌に具間、、柄に具間、、枝に具間、、繪に具間、、得に具間、、獲に、、、もういいか

Enigma。第二次世界大戦中にナチスで使われた暗号機の事らしいです。由来はギリシャ語の「謎」という意味。今でこそ日本でも幅を効かせているサウンド・クリエーターという職業のハシリと言えるドイツのサウンド・クリエーター集団。実際には1990年にマイケル・クレトゥが立ち上げたプロジェクトでバンドではない。

早々にアルバムを手にして1曲目が始まった瞬間に、自分がなぜ「エニグマ」に惹かれたのかすぐにわかった。ドイツなんだ、中身が全て。
僕の中には70年代のECMサウンドがある。まるでエバーハード・ウェーバー(b)やヤン・ガルバレク(sax)でも出てきそうな出だしじゃないか。(もちろんシンセとサンプリングの世界だけどね)
こういうスペースとステイ・ビートの音楽は大好きだ。
やがて3曲目でその後大ヒットした“Return To Innocence”。この曲がどれだけ世界中のポップスに影響を与えたか計り知れない。ヒーリングという言葉もこの頃から世間で飛び交うようになった。その後エニグマはグリゴリオ聖歌を盗作したとか、訴訟だとか、いろいろと言われたようだけど現在では全てクリアーされているようだ。

このエニグマのマイケル・クレトゥという人とはどんな人なんだろう?
ネットの時代になってからいろいろと調べてみたけど、とにかくエニグマでの彼は「謎」がテーマらしく「何処の誰がやっていようとこういう音楽があってしかるべきだ」という姿勢を貫き通している。いわゆるミュージック・ビジネスに背を向けたまま。もちろんネットにも。と、言うよりもそれでいいのではないかな?
「謎」があるから人々は興味を持ち、次の「謎」の登場に期待する。
クレトゥからすれば、ミュージック・ビジネスは単なる伝達の手段でしかない、という図式が感じられる。コンサートツアーも行わず(いや、それは作品のクォリティーを考えると不可能)、何でも「パフォーマンスを良し」とする今日の傾向に警告を鳴らしているようにも思う。そう、本来音楽は「音を楽しんで聴く」ものなんです。作品を何処かで耳にして、好きになって、聴く。それで十分なんです。創造力から言えば見るのは本当は「おまけ」なのかもしれません。
アルバムの収録時間の44分も、ちょうど全てを聴いて程よく満たされる時間(LPの収録時間と同等)という点にも注目。

最近「裏方」のサウンド・クリエーターとかプロデューサーが前面に出過ぎて本来のバランスが崩れている物もありますから、このような「謎」を維持している人は正しい。
自分を「謎」とする事で、何のプレッシャーもストレスも無い音楽が聴こえて来る「エニグマ2」。2006年のこの時点で改めて聴くともう一度原点に戻った図式を期待してしまいます。

冒頭に書いた目黒の吉田さんのスタジオなどは今日でも「謎」を多く持った作品をリリースしている日本では数少ない制作集団に思います。エニグマと言うと、聴いた時期が一致している事もありますが、それを思い出させてくれます。

まだ青梅までだった夕暮れの圏央道を走りながら大音量で聴いてからもう10年以上も経った。

おしまい



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