2007/2/1

北欧の吟遊詩人はラッセルに学んだ・・Jan Garbarek(sax)  木曜:Jazz & Classic Library

ヤン・ガルバレク(Jan Garbarek)はドイツの名門レーベル“ECM”の看板アーチストとして1970年以来のキャリアがあり、サキソフォン奏者としてトーンに誰が聴いてもガルバレクだとわかるほどの個性を持つ、コルトレーン以降最も印象深いサウンドを持つ奏者だと思う。

近年の演奏はECMがニューシリーズと名打つように、北欧の音楽や民謡に深く根をおろしアメリカンなジャズとは異なるコンセプトで綴られた作品が多く、映画やドキュメンタリーの世界では正に「北欧の吟遊詩人」振りを遺憾なく発揮している。その反面、ヴィブラフォンのゲイリー・バートンやギターのパット・メセニーを愛好した70年代ECMファンの立場から見るともはやまったく別の位置に進んでいるかの印象もある。

近年の彼の傾向の作品で好きなのはコレ
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『Legend of the Seven Dreame/Jan Garbarek』(ECM/1988年)

一聴すると、これは少し前に流行った「ニューエイジ」ミュージックかと思うような印象の作品が続くが、北欧の民謡にも近い、一度聴くと耳から離れなくなってしまうようなメロディーと空間が心地良い。
ガルバレクの影響はヨーロッパでは絶大で、ロックバンド“ENIGMA”(実際はマイケル・クレトゥの個人プロジェクト、06年9月7日のブログで紹介)でもガルバレク風サウンドが随所に現れるから驚きだ。

ヤン・ガルバレクのあのトーンに出会ったのは僕が中学の頃だった。大好きで聴いていたピアニスト、ビル・エバンスが当時放った作曲家ジョージ・ラッセルとの共演で異作中の異作『LIVING TIME』(CBS/1972年/06年8月17日のブログで紹介)で知ったジョージ・ラッセルに興味が沸き、ラッセルのレコードを集めた時だ。
8月のブログでも紹介している『OTHELLO BALLET SUITE』の他に見つけたこのアルバムが僕のガルバレク・モードの発端となった。

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『Electronic Sonata for Souls Loved by Nature/George Russell』(Flying Dutchman/1971年)
ラッセルお得意の大編成ではなく、予めラッセルが用意した“電子音源”を流しながらJan Garbarek(ts)Manfred Schoof(tp)Terje Rypdal(g)Jon Christensen(ds)Red Mitchell(b)にラッセル自身がピアノで参加したコンボ作品。ライブ録音のようにも聴こえる(恐らくテープをスタジオのスピーカーで流しながら演奏しているのでライブっぽく聴こえるのだろう)
全編連続演奏でテープに仕組まれたCueで曲が変るという、ある意味で当時のマイルス・デイビスのバンド(マイルスのCueで曲を変える連続演奏)とよく似た手法。

この辺りにかなり影響されてか僕も高校の音楽科のコンサートでこの手法を用いて連続演奏をやった事がある(笑)。

このラッセルの作品で強烈に印象に残ったのがヤン・ガルバレクとギターのテレエ・リピダル。僕は益々北欧のジャズに興味が沸いてきた。

そしてその直後に見つけたのがガルバレク実質上のデビュー・アルバムだった。

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『THE ESOTERIC CIRCLE』(Flying Dutchman/1970年)

60年代半ばにアメリカのジャズシーンに幻滅したジョージ・ラッセルがスカンジナビア半島に渡って独自のリディアン・クロマチック・オブ・トータル・オーガナイゼーションを大学で教鞭し、その教え子達が集まってヨーロッパ独自のジャズを作り出しつつあった。
その一つのユニットのアルバムとして発表されたのがこの作品。ジャケットにも“George Russell Presents”とある。
メンバーはJan Garbarek(ts)Jon Christensen(ds)Arild Andersen(b)Terje Rypdal(g)。
見開きのアルバム(LP)をあけると左側全面にヤン・ガルバレクの紹介、右側に他の3人がまとめて紹介されていて、実質上ガルバレクがリーダーであった事がわかる。

1曲目Traneflightはまるで草原を渡る風のようなリピダルのギターにのせて、コルトレーンばりのトーンでガルバレクがそよぐバラード。2曲目からは一転して8ビートやジョージ・ラッセル・サウンド、中にはNefertiteまで収録されている。
ECMに入る前のガルバレクはポスト・コルトレーン派、そして先日惜しくも亡くなったマイケル・ブレッカーと同じような世界感を持ちその後の道を歩んだ事がわかる。
当時ランディー・ブレッカーのアルバム『スコア』で聴いたマイケル・ブレッカーとガルバレク(47年生まれなのでブレッカーとほぼ同世代)はアメリカと北欧で同時に生まれた新世代サキソフォン奏者として僕の頭の中に残っている。

ガルバレクと言うとECMなんだけど、それ以前からヨーロッパの革新的なジャズを世界中に紹介していた「Flying Dutchman」というレーベルが果たした役割も大きい。

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ジョージ・ラッセルはその後作曲家ガンサー・シュラーの誘いで70年にボストンのニューイングランド音楽院がジャズ科を設立するにあたって北欧を離れるが、彼の教え子達は現在も北欧でジャズの開拓を続けている。
吟遊詩人の父は、リディアン・クロマチック・コンセプトの生みの親、シェーンベルグやストラヴィンスキー、バルトークの音楽概念を解き明かし、武満徹にまで影響を及ぼした現役の作曲家だったのだ。

おしまい



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