2007/7/1

節目・・・  日記

日本ビクターが国内のカーオーディオ分野から6月いっぱいで撤退した報道は御存知の方も多いでしょう。

既に松下電器産業の軒下で経営再建を目指してから久しいものの好転の兆しは見られず大きな節目を迎えた、という事のようです。

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個人的に日本ビクターの印象はとても良く、自分の周りを見渡せばあのお馴染みのマークが。

高校時代にトロンボーン専攻の同級生がオーディオマニアで、始終音楽科の寮でガンガンにジャズを聴いていた僕に勧めたのが当時「ペケ三」と呼ばれたビクターの密閉式スピーカーSX-3(1974年のモデルチェンジ直前に初期型を購入)。今も実家のアナログオーディオでは現役です。

白木のシンプルなスタイルと中低音の「ま〜るい」感じが今も独特ですがアナログLPの、特に70年代のECM録音との相性は抜群です。流石にツイターのレベルコントローラーは触ると「ガリ」がきてますが、このスピーカーとの出会いによって僕の音質に対する標準が出来上がったとも言えます。多少贅沢でしたが、ジャズ喫茶のような音を寮の部屋で出したかったのですね。大学になってから代えたターンテーブル(Technics)とともに実家で健在で、今思えば偶然にも松下電器とビクターのコラボです。

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今のリビングのスピーカーはビクター。
大したコンポではありませんが、やはり耳が落ち着くのはSX-3のDNA(それもかなり薄い/笑)を受け継ぐ音。

数ある音響メーカーの中で、日本ビクターの印象は誰に聞いても「信頼・堅実」。どこかの企業のように、やたらと突飛な事や目先の事で世の中をかき回すような事をしない。良識ある音楽ファンに二番目、あるいは保険として選択する位置をキープして来たメーカーでしょう。

日本ビクターは技術開発でも熟練の専門家を多く輩出しています。

僕が日本ビクターと直接的に関わって一番印象的だったのは2002年の「SIX INTENTIONS」と03年の「STILL ON THE AIR」のアルバム・マスタリング。業界では既に「伝説」とも呼ばれる名マスタリング・エンジニア小鉄徹さん専用の牙城、ビクター本社工場にある通称「小鉄ルーム」でxrcd24のマスタリングに立ち会った時の事。

ここでマスタリング出来るのはアナログテープ原盤限定で、しかも小鉄さんが原盤を聞いてOKを出したもののみ、という厳しい喚問をパスしなければならない。
「小鉄ルーム」に入れた人間は業界広しと言えどもそういるものでもない。

作業は小鉄さんが独自のシステムを使って進行して行く。そのシステムにも秘密はいっぱいあるのだけど、一介のミュージシャンにわかるはずがない。

ある程度音を再生しながら、イメージがまとまると僕らに「この音はどうですか?」という質問が浴びせられる。気に入ればOK、気に入らなければNO(レーベルの社長から「赤松くんは耳が厳しいからあまりNOばかり出さないように」とは言われてるのだけど・・・/笑)。

一頻り音がまとまって通常ならここでプレス用のマスターへの「落とし」に入るのだけど、ココではまずは全員が「小鉄ルーム」から追い出される。最初はびっくりしたがそれが流儀なんだそうな。秘密の作業が行われダウンの準備が整うまで僕らはロビーで歓談する事になる。
数十分後に「どうぞ」という小鉄さんの合図が出てから再び戻る。

ここでまたびっくりする事が起こる。

一度普通の状態で出来上がった音を聞いて、ではプレスマスターに「落とします」という段階で、事もあろうか小鉄さんはカンテラを持ち出してくる。

「うん?」

と思っていると、室内の余分な機器の電源を全て落とし、部屋の電気までも消してしまう@@;
カンテラを持ち出した意味がやっとこれでわかる。

真っ暗な部屋で必要最低限の電源だけを使ってカンテラで手元のスイッチを照らしながらプレスマスターに「落とし」。

このデジタル文化花盛りの時代に信じられない光景が目の前(と言っても真っ暗)で繰り広げられる。

これが1曲毎に繰り返されるのだからアルバム1枚に丸一日掛かるのはお分かりでしょう。(通常は半日もあればプレスマスターは完了する)

この不思議さに質問が沸いてくるのは僕だけじゃないでしょう。
思ったら先人に聞くという性格だから小鉄さんに聞いてみた。

「なぜ真っ暗でやるんですか?」

小鉄さんは微笑みながら応えてくれた。

「理由はわからないんですが、いろんな事を試して僕らの中で一番音が良かった時の事を忠実に実践してるだけなんですよ。世の中には説明のつかない不思議な事がたくさんありますからね」

xrcd24の技術開発は機械のシステムが出来上がってから「GO」が出るまでに随分時間が掛かった(実はxrcd24の世界初プレスが「SIX INTENTIONS」だったので数ヶ月待った経験者/笑)。
その間にこの小鉄さんが何を繰り返していたのかはこの言葉で想像出来る。

ともすれば、データ上の計算だけで物事を作り上げて本当の技術革新とは程遠い商品開発ばかりを繰り返す企業も見られる時代に、技術屋さんをしっかりと育てているビクターに日本の企業の良心を見る思いだった。

冒頭の文に戻るが、
絶えさせてしまったものは二度と戻る事はない。
宣伝に頼った物は宣伝で息絶える。

技術はあくまでも「裏方」だ。
ユーザーは購入して満足させられているのが何であるかなんて、ちっとも気にしてない。使いやすくて壊れなくて、そして愛着が沸けば、それでいい。

今の商品に足りないのは、ユーザーが「勝手に」愛着を持つ隙間が無いという事。
愛着となりそうな事を、お節介に先に述べられたら迷ってしまうじゃないか。

おしまい



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