2007/7/6

エレクトリック・ヴィブラフォン小史−その2  金曜:vibraphoneやmarimbaの為のジャズクリニック


毎週金曜日はVibraphoneやMarimbaをやっている人向けのお話し。第五十七回目の今日は先週の「エレクトリック・ヴィブラフォン小史」の続きです。

先週の記述で一つ訂正があります。
エレクトリック・ヴィブラフォンの事を僕が最初に目にしたのを1969年1月に発売された「スイング・ジャーナル」誌と書きましたが、正確には1968年12月号で、これは僕が初めて買ったジャズ本の記念すべき第1号。表紙はゲイリー・バートン氏。小学生の1ファンとして本屋で見つけて即購入したものでした。

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「スイング・ジャーナル/1968年12月号」スイング・ジャーナル社

既に68年にはエレクトリック・ヴィブラフォンの噂が日本へも聞こえていたという事になります。

世界の二大メーカーMusser社とDeagan社がエレクトリック・ヴィブラフォンを開発したのは60年代後半のように思いますが、プロトタイプの開発はそれ以前から行われていたようです。
Musserの開発していたエレクトリック・ヴィブラフォン(正確にはAmplified vibraphone)はグロッケンシュピールと似た3オクターブ(F3-F6)の小型のもので、高音側の客席側に操作パネルがあり、スタンドに据えられている特異な形をしていました。1本の太いスタンドの上にグロッケンシュピールが乗っているようなもので、鍵盤の直下(真ん中)にマグネット・スプリング式のピックアップを装着したもので、これはギターを電気増幅させるピックアップ・マイクと同じシステムでした。

とりわけ演奏者の中でエレクトリック・ヴィブラフォンの開発に熱心だったのがマイク・マイ二エリ氏で、既に1964年には最初のピックアップ・システム(Hot Dot)を発明していたというのだから凄いです。その理由の一つにはムッサーグリップ(インディペンデント・グリップ)の弱点である音量の無さを電気増幅によってフォローする目標があったと予測します。

唯一市販されたディーガン社のエレキ・ヴァイブ“エレクトラ”を除けば商品開発の段階で滞ってしまったのにはいくつかの理由もあったようです。

滞った理由の一つには鍵盤とピックアップを密着させた為に鍵盤の脱着が思うように出来ず(実は鍵盤を装着したまま楽器を運ぶのは容易ではない)、かと言って脱着を頻繁に繰り返すとシステムに障害が起こりやすい。(実際に“エレクトラ”を一人で運ぶのはとても無理でした)

もう一つは音質の悪さ。鍵盤に密着させる方式のピックアップは鍵盤にミュートが掛かってしまい、音色にかなり影響を与えてしまうので演奏者から敬遠された、という経緯。(よく聞くと初期のエレクトリック・ヴァイブは余韻にピン、ピンという妙な残響音がします)
音量を取るか、音質を取るか、の選択肢に迫られましたが、ステージのPAシステムが劇的に進化した為に音質を犠牲にしてまでエレクトリック・ヴァイブを選択する必要が無くなったわけです。

1970年代の半ばには、メーカーもその辺りの事情からエレクトリック・ヴァイブの開発からは撤退する傾向になり、ディーガンの“エレクトラ”が唯一の販売商品となりました。

ここまでがエレクトリック・ヴィブラフォンの第1世代と言えるでしょう。

しかし、エレクトリック化のメリットは音量の増幅だけではありませんでした。
中でもエレクトリック化に熱心だったマイク・マイ二エリは70年代後半になるとMIDI信号と同期したポリフォニック・シンセサイザーの原理をヴィブラフォン(正確にはマレット・キーボード)に齎したのです。

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マイニエリ氏が開発したポリフォニック・シンセ・ヴァイブ

この開発は劇的なものでした。まず、重量はタッチセンサー式の為、従来のような重い鍵盤を使う必要が無くなった点。さらに全音域を自由に広げる事が出来るので鍵盤をピアノと同じように均一のサイズとした点。さらにMIDI音源によって様々な音色がヴィブラフォン奏者の手中に納められた点。電気信号の取り込み方は人間の体内にある微弱電気をマレットを経由してタッチセンサー(鍵盤)に送るというもので、80年代にはエレクトリック・ヴァイブ用のマレットも発売されていました。購入したので知っていますがヘッドの部分がかなり空洞で毛糸に通電性の良い化学繊維を混ぜた面白いものでした。

これらは当時台頭してきたフュージョン・ミュージックと共にヴィブラフォンがアコースティックな表現から劇的な展開を持つ音楽への進出を可能にしました。

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ポリフォニック・シンセ・ヴァイブとフュージョン・ミュージックが合体した80年代フュージョンの代表作とされる「Love Play/Mike Mainieri」

さらに、一方では従来のアコースティックなサウンドをそのまま増幅させるピックアップ・システムを専門に開発するメーカー(全種類の楽器対象)も現われ、MIDIヴァイブか、はたまたネオ・アコースティック・ヴァイブ、さらに本来のアコースティック・ヴァイブと3つの流れが狭いヴィブラフォンの世界に渦巻き始めたのです。

1980年代前半の事。

この項次回に続く
→『エレクトリック・ヴィブラフォン小史 その3』http://sun.ap.teacup.com/vibstation/479.html



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