2007/7/13

エレクトリック・ヴィブラフォン小史-その3  金曜:vibraphoneやmarimbaの為のジャズクリニック


毎週金曜日はVibraphoneやMarimbaをやっている人向けのお話し。第五十八回目の今日は先週の「エレクトリック・ヴィブラフォン小史-その2」の続きです。

1970年代の終わりにマイク・マイニエリ氏が開発したポリフォニック・シンセ・ヴァイブはヴィブラフォン奏者に衝撃を与えました。80年代に入り世界的なFUSION MUSICの台頭もあってマイニエリ氏の使うポリフォニック・シンセ・ヴァイブは理想的な形に見えたのでした。

ただ、このシステムには一つだけ欠点があったのです。
それは音色の殆どはMIDI音源で決まる、つまり楽器としての形はシンセ・ヴィブラフォンないしはシンセ・マリンバの形をしていましたが、鍵盤は単に信号を受けるパッド・シンセに過ぎなかった点です。これによって同じMIDI音源を使うとキーボード奏者もエレクトリック・サックス奏者も同じ音になってしまうのです。少しでもシンセを弾いた事がある人ならわかると思いますが、この音源というのは便利なようで厄介な面があり、単一の音源を使うと扁平なサウンドしか出ません。そこで複数の音源(メーカー毎に特徴がある)を組み合わすのですが、組み合わせば組み合わすほど元の楽器が何だったかさっぱりわからなくなってしまうのです。

この点は僕も早期に気が付いて「ならば10本の指でシンセを弾けば済む事じゃないの?」という疑問が沸いてきたわけです。
それだけエフェクトの世界で確固たる楽器の存在感を出すのは並大抵の事ではないのですね。もちろんキーボードを弾かないという前提で使うのなら意味はありますが、この点でシンセ化方面の楽器としての進化は一応ピリオドが打たれました。
多少音は悪くてもDeagan社のエレキ・ヴァイブ“エレクトラ”の人気があるのも、このような理由からでしょう。やはり楽器には固有の音色が備わる事が多くの演奏者を魅了するのです。

そこで本来の楽器の音量増幅として注目されたのがアタッチメント式マイクロフォンです。
鍵盤に装着する方式のマイクロフォンはサックスやトランペットでもお馴染みですがそれをヴィブラフォンやマリンバに装着する方法が主流となりました。
もちろんマイニエリ氏自身もノーマルなヴィブラフォンに装着したアタッチメントの電気信号をMIDI信号に変換して生音+アンプリファイア音+MIDI音源という方向に変わって行きスタイルを確立したのは言うまでもありません。

この時期(80年代)は僕自身もエレクトリック化を考えた時期でもあり、アタッチメント方式も考えましたが、鍵盤にアタッチメントを装着させると音質の低下が避けられないのでPCMマイクロフォンによるボディー(共鳴管)密着システムを使っていました。
(金曜特集第14回/06年6月23日のブログ)


時代は進み90年代に突入。

この頃になるとどの演奏会場もPAシステムの性能が飛躍的に向上し、ヴィブラフォン奏者も昔ほどはマイクのセッティングで苦労する事も少なくなりました。
それでもあちこちに出掛ける度に音響スタッフの並々ならぬ苦労に支えられて、というのが正直なところです。

今は無き六本木ピットインではバスドラム用の背の低いマイクスタンドをヴィブラフォンの鍵盤の直下に3本置き、さらに鍵盤上方に左右2本というセッティングが確立されていました。野外フェスティバルのツアーが多かった日野皓正さんのバンドの時はマリンバの鍵盤直下の心棒に固定のミニ・マイクスタンドが5本装着されて何万人という観衆を相手に問題なくサウンドが響き渡りました。これらは全て音響スタッフが妙案を捻り出してくれたからです。

この時期にはアタッチメントの性能も向上したようで、旧式のバータイプの物から鍵盤個別に接着するドイツのメーカーK&Kのピックアップ・マイクロフォンが主流に。

21世紀に入り現在エレクトリック・ヴィブラフォンと言える商品はオランダのメーカーVander Plus percussion社がMusser社のM-55をベースとしてピックアップとコントローラーやミキサーを装着したeVibeだけかもしれない。

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“The eVibe”Vander Plus percussion

(ちなみに現在僕はこのVander Plus percussionのシリコンダンパーパッドを使っている)

また、90年代初期には日本でもコルグ社を経由して売られていたパッド式MIDIマレット・シンセのMallet-KATがあった。

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Mallet-KAT”Alternate Mode

(現在はコルグからの販売は終了している)

エレクトリック・ヴィブラフォンの歴史を駆け足で巡って来たが、そもそも ヴィブラフォンが誕生した瞬間はマリンバの変形のスチールフォン。鍵盤がスチールでダンパーペダルも無かったところから進化は始まっている。共鳴管の中にトレモロ(ヴィブラート)を発生するファンを仕込んだスタイルが原形だ。
1928年にDeagan社が鍵盤をアルミニウムに乗せ替え、翌29年にダンパーペダルを装着させた瞬間からVibraharpが誕生し、やがてヴィブラフォンの歴史が始まるのだけど、30年目の68年にエレクトリック・ヴァイブが誕生して以降、大きな変化は見られない。
シンセ化やパッド化は本流とは成り得なかったが、もしも鍵盤に21世紀らしい音色を奏でる新素材が開発されれば、この楽器は大きく発展するように思うのは僕だけではないでしょうね。

おしまい



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