2007/8/2

中間が心地よい・・・・・・Stan Getz  木曜:Jazz & Classic Library

テナー・サキソフォンのスタン・ゲッツは二つのファンを持っていたと思う。

一つはデビュー当初の溌溂としたハードバップ・スタイルやクールジャズのスタイル。ジャズファンの多くはこの時期のゲッツをこよなく愛している。

もう一つは60年代のボサノヴァ・ムーブメントの中のゲッツ。クールでブリリアントなトーンがボサノヴァの中に新しい活路を見い出した感じで、こちらはポピュラー全般のファンが多い。

僕がジャズを聴き始めた頃は、ボサノヴァ全盛期の直後(日本で)なので、ジャズ&ロックやアヴァンギャルド、やがては70年代に突入という中でボサノヴァのゲッツにより親しみがあった。ブームが去った中で買った『ゲッツ〜ジルベルト』は僕のゲッツ入門編で、その素朴なメロディーとテンションの組み合わせが新鮮ですぐに夢中になってしまった。

さて、このどちらでもないスタン・ゲッツはどうなんだろう?

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『A Song After Sundown/Stan Getz with Arthur Fiedler & Boston Pops Orchestra』(RCA/1966年)

スタン・ゲッツは元々ジュリアード音楽院出身で、ダブルリードのファゴットを専攻していた。マイルス・デイビスなども在学していたのでこの頃のジュリアード音楽院は賑やかだったでしょうね。
ファゴット奏者であったのが、あのゲッツ独特の奏法(深いトーンとトーンコントロール)に結び付いたのは想像出来ます。

このアルバムはボストンポップス・オーケストラとの共演で今でも毎年行われているタングルウッド音楽祭(1966年8月2-3日/Lenox,MA)の野外コンサートのライブ盤で、クラシック、ジャズ、ミュージカルそれぞれの音楽的な要素がバランスよく聴けて、このメロディアスな展開が好きで僕は長く愛聴しているのです。オーケストラ以外のメンバーはギターにジム・ホール、ヴィブラフォンにゲイリー・バートン、ベースにスティーヴ・スワロウ、ドラムがロイ・ヘインズ。
ボサノヴァ全盛期のゲッツ・クァルテットにジム・ホールが加わった形です。

恐らく1966年という時代のアメリカの普通の家庭でテレビやラジオから流れている音楽、と言っても良い気がして、何となく懐かしい感じがします。

このアルバムを聴いていて思うのは、スタン・ゲッツというジャズ・サキソフォン奏者がいかにプレーヤーとして突出していたのか、です。オーケストラをバックに従えても、クァルテットの軽快な演奏(このアルバムでは最後のアンコール以外はゲッツの独壇場)でも、このトーン無しには成立しない世界観があるのですね。
この当時、そういう世界観を音色で感じさせてくれたプレーヤーは他にマイルス・デイビス(tp)くらいだと僕は思っています。

この二人は同じジュリアード出身という事もあるのか、音楽に対してとてもオープンな姿勢があって頼もしいのですね。「オレ、ジャズなんだから、これでいいんだ」みたいな閉鎖性がみじんも見られないんです。

このアルバムに先立つ事6年、まだアメリカのジャズブームが下火で不遇の時代に、ゲッツは興味深いオーケストラとの共演盤をリリースしています。

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『Focus/Stan Getz』(Verve/1961年)

ストリングスの入ったジャズ・アルバムと言うと、甘ったるいバラードをトロトロに編曲して聞かせようとする「いかにも企画」が多い中、このアルバムでは全編作曲家Eddie Sauterの書き下ろし、コンテンポラリー、妥協無し、という斬新なものです。ちょうどこのアルバムの1年前にマイルス・デイビスがギル・エバンス・オーケストラとの名盤『スケッチ・オブ・スペイン』(CBS/1959年、60年録音)を録音しています。こういう革新性にもこの二人の共通項が垣間見れます。

さて、元のアルバムに戻りますが、61年の『Focus』と比べると、かなり聴きやすい音楽に仕上げられていますが、ゲッツの演奏は少しも変わらない鋭さがあります。オーケストラだけではタダのミュージカル音楽にも聞こえかねない部分をゲッツのサキソフォンが「聴く」音楽に仕上げてるのですね。
コンダクターのアーサー・フィドラーは長年ボストンポップス・オーケストラを指揮して人気があり、オケとソリストのタイミングなど、セミ・クラシック界の巨匠らしいコンビネーションがそこかしこにうかがえます。

このアルバムにもエディー・ソーターの作品があり、ゲッツはオーケストラとの共演を長年温めていたのではないかと思えるのですね。

5曲目のソーター作「タングルウッド・コンチェルト」の途中でプロペラ機が飛んだり会場周辺で遊んでいる子供の声が風にのって聞こえたりするのも、野外コンサートらしくていい感じです(タングルウッドはアメリカで有名な避暑地)。この盤では最後の最後に、ゲッツといえばこの曲とばかりに「The Girl From Ipanema」が急速調で演奏されアンコールとされたようです。

ともあれ、オーケストラをバックに個性を発揮出来る存在だったスタン・ゲッツ。
この人やマイルス・デイビスの魅力はあらゆる音楽で「中間」の位置にあったという事じゃないかと思っているのですね。周りが変わってもずっと「中間」でいられる自信です。

こんなゲッツの楽しい午後の野外コンサートは一度生で見てみたかったですねぇ。
タイムマシーンがあれば時間を41年前にセットしてタングルウッドを目指せば、ちょうど今日なんですね。
この時のステージにはどんなタングルウッドの風が吹いていたのでしょう。。

おしまい



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