2007/11/9

ちょっと他所を覗いてみよう・・・  金曜:vibraphoneやmarimbaの為のジャズクリニック

毎週金曜日はVibraphoneやMarimbaをやっている人向けのお話し。第七十回目の今日は「ちょっと他所を覗いてみよう」というお話し。

このところ手順など技法の話しが重なったので今日は少し息抜きをしてみましょう。

ヴィブラフォンは1920年代のスチール・フォンが進化(鍵盤に音の伸びるアルミ合金を導入した事によってダンパーペダルが開発された)して今日のスタイルが出来上りましたが、奏法はジャズで開拓され、近年になってクラシック(と呼ぶには古典音楽が無く違和感もあるのでコンテンポラリーとしましょう)に逆輸入されている珍しい経緯のある楽器です。

主なジャズ・ヴァイブ奏者の事はこのブログでも登場しますが、ジャズ以外のヴィブラフォンの音楽についてはあまり知られていません。
では、それを解説しましょう・・・と行きたいところですが、それをスラスラと書けるほど、僕はそれらに触れてきませんでした。

同じマレット・キーボードのマリンバはコンテンポラリーの分野での作品が溢れるほどあるのにジャズに関しては空洞化しているのとは対象的です。
この違いに一つの見解を持てるところにヴィブラフォンという楽器の性質があります。

例えばドラムセットを演奏する人を見てもわかるように、タイコ類では様々な「芸当」があって大半の人はこのタイコの音色の組み合わせに夢中になるのですが、ことシンバルに関してシンバルだけに夢中になって演奏している人は(いるかもしれないけど)稀です。

革の持つ響きとうねりは複雑で一種原始的な倍音が演奏者によって様々なニアンスを帯びてインパクトに繋がるのに対して、金属の響きはある一定のエリアに整理整頓されて用途が単純であればあるほど効果的という側面(得意分野)があるのです。マリンバが比較的打楽器的に打ち放つアプローチが効果的であるのに対してヴィブラフォンは音の処理に対するアプローチが効果的という正反対の性質とも言えます。

さて、コンテンポラリー音楽(クラシック類の)は古典音楽と違って表層表現に重きを置く音楽です。ミニマム・ミュージックなどもその一端と言えるでしょう。
マリンバでは得意なこのジャンルのヴィブラフォンって一体どうなってるんでしょうね?

ひとつのアルバムを紹介します。

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『VIBRAFONE SOLO/Andre Juarez』(Gravadora/1997年)

アンドレはバークリー時代の同期生で現在出身地のブラジルはサンパウロを中心に演奏やクリニシャンとして活躍しているヴィブラフォン奏者です。

バークリーの校舎にあったガラス張りの練習室で練習しているといろんな人が覗きにくるのですが(笑)、その中に毎回覗いているちょっとシャイな青年がいました。最初は挨拶くらいでしたがある時その青年が「よかったら僕にヴィブラフォンを教えてくれない?」と声を掛けてきたのです。それがアンドレとの最初の会話でした。

その頃から彼は世界中で流通するヴィブラフォンの教則本や曲集を集めていてとても研究熱心な青年でしたが、当時習っている先生とウマが合わずマレットテクニックやインプロヴァイズで悩んでいたところ、たまたまコンサートで見た僕が気に入って声を掛けてきたとの事でした。
こちらも学生だから断ろうとも思ったけどあまりに熱心に通う(練習室の外に/笑)ので引き受ける事にしました。
数カ月そんな日々が続いて僕は卒業してしまったのでその後の彼の事はわからなかったのですが・・・・

卒業してから10年近く経った時に、突然友人を経由して日本にいる僕に届けてくれたアルバムがこのソロ・アルバムという事なんです。

研究熱心なアンドレらしく、様々な作曲家の作品を揃えています。

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それにしても、ヴィブラフォン用(叉は編曲したものも含む)の楽曲がこんなにたくさんあるとは僕は驚きでした。

この作品の作曲家は、H.J. Koellreutter, Hermeto Paschoal, Ernst Mahle, Ricardo Breim/José Miguel Wisnik, Edmundo Villani-Côrtes, Marlos Nobre, Cesar Camargo Mariano, Damiano Cozzella, André Christóvam, Nelson Ayres, Arrigo Barnabé, Cyrio Pereira, Eliane Elias, Edson Zampronha, Almeida Prado, André Juarez, Osvaldo Lacerda, Egberto Gismonti, Canhoto da Paraíba, Sergio Vasconcellos Corrêa, Marlui Miranda e Jônatas Manzoli.

インプロヴァイズは殆どありません。
古典音楽や近代フランス音楽風なものもあれば、奏法では現代音楽(コンテンポラリー)などで未だに使われている古典的なボーイングやシズル奏法、ジャズでお馴染みのベンドやマレットダンプニングなど、この1枚でおおよそヴィブラフォンという楽器の表層表現の全てがわかるものです。

もちろん現在彼はジャズプレーヤーとして活躍しているので、このアルバムの音楽から既に飛躍していますが、ヴィブラフォンという一つの楽器に対する思い入れは僕の及ぶ所ではないのがこのアルバムからも伝わってきます。

Andre Juarez ホームページ

さて、聴いて思うのは、最初に述べたようにマリンバのような派手さがないのでずっと聞き通す(全21曲!)のは辛いかもしれません。もっとも楽器の考案者やグリップの考案者のアルバムよりは遥かに音楽的で楽しめるものです。

これとはまったく違いますが僕もヴィブラフォンのソロ作品を集めたレコーディングをやっています。但し、スタジオの中に入って写し出される画面を見ながらその場で即興的に演奏したもので譜面は一切ありません(スカパー等で放映中の番組「エコ・ミュージック・カラーズ」)。そのCD-Rがあるので映像抜きで聴く事が出来るのですが、かたやスコアに記されたアンドレのソロ作品、かたや僕の完全即興演奏によるソロ作品、この二つを聴き比べてみると(恐らく誰が聴いても)そんなに違いはないのです。

ヴィブラフォンが表現出来る事の限界。

正反対の方向から楽器に向かって、結論は似たものになる、というのが、やはりヴィブラフォンという楽器はジャズによって開拓されたという理由に結び付きます。
つまり、そこには楽器固体の表層表現とは違う「音楽」がしっかりと存在して成立つ、という結論が見えるんですね。
それ以外はどんなに頑張っても、効果的な効果しか残らない、、、、そこにマリンバとは違うヴィブラフォンという楽器の資質があるような気がします。

おしまい



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