2008/2/4

あ!・・・・抜けた!  月曜:ちょっと舞台裏

久し振りの雪景色の中、強烈なレフレジレーターの氷結温度で過ごす深夜です。
もしもこれが一日遅かったら、、、休日に降ってくれた事に感謝の月曜日

ハプニングとも言えるアクシデントのお話し。

レコーディングではヘッドフォンをつけて演奏するのが常ですが、このヘッドフォン越しの演奏というのは、意外と慣れないと難しいのですね。

僕は学生時代にオープンデッキを持っていて自分で弾いた伴奏(時にはベースまで弾いて重ねましたが)を流しながらヴィブラフォンを録音して練習しました。
当時はまだウォークマンなど無かったので2トラックのオープンデッキの片側(L−Rの)に伴奏、片側に演奏を録音していたのですね。
当然ヘッドフォンをしないと伴奏が聞こえませんから必然的にヘッドフォン越しの演奏という状態に慣れていたわけです。

よく「楽器は生音が命」という人がいますが、レコード媒体で育った僕らは「生の音」と「録音された音」の違いを区別しながら育ったのでマイクの音にそれほど抵抗がないのです。
むしろ、ライブのように大雑把な音環境の中では繊細な表現を心がけるよりも全体のダイナミクスを優先してある部分の音環境を「捨てて」演奏する事のメリットを知っているのです。

音にこだわったら最後、「これは私じゃない!」と言うライブ環境を打ち消すような姿勢になってしまいます。
なんでも「生」が良いという観念はレコード媒体を聞いて育っている内に消え去りました。かと言って音楽ホールの乱反射する音環境が最高だとも思わないのです。
どんな環境でもOKなのです。

さて、ヘッドフォン。

偶然にもそんな状態(ヘッドフォン越しの練習)で育ったものですからスタジオの仕事に入った時は何の抵抗もありませんでした。

マイクに乗りやすい演奏法という事にも気付きました。
生楽器ながら、そういう方法があるのですね。

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そんなヘッドフォン越しの演奏はスタジオのブースという小部屋の中と外とを繋ぐ重要なライフライン(笑)。
ポップスのレコーディングはオーバーダブが主流(ヴィブラフォンの場合)で、録音するミキサーとの間は時にスタジオのレイアウトの関係で直視できない場合もあります。
メインブースと呼ばれる大部屋とミキサールームは直視出来るレイアウトでも、多くの小部屋を持つスタジオではモニターカメラでブースの中の様子がミキサールームに写される仕組みになっています。

小部屋にヴィブラフォンをセットして事前に録音されているオケを聞きながら演奏して録音するのですね。
その時に何かあれば「お〜い!」とカメラに向かって動作すれば「ハイ、なんでしょう」とトークマイクでお互いに伝達しあえるわけです。

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オーバーダビング(重ね録り)の場合は「ココね、どうなってるの?もう一度オケを聞かせて」とか途中でストップしながら確認も出来ます。

ところが、ジャズのような録音となると演奏者はそれぞれのブースに入っていても演奏は同時にその瞬間に起こった事を記録する事が重要なので実は大変なんです。

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そうなると、ますますヘッドフォン越しの音環境は重要になります。

楽器の横にあるキューボックスと言う全体の音のバランスを楽器毎に調整するモニターにヘッドフォンを差し込んで自分の音や他の楽器の音の聞こえ方を調整して録音に入るわけです。いわばレコーディングの生命線、やっぱりライフラインです。

ヘッドフォンとキューボックスの間は当然シールド(コード)で結ばれます。
ヴィブラフォンを演奏するからか、僕が演奏中に動き回るからか(笑)、このシールドがブラブラすると邪魔なんですね。
癖でいつもキューボックスは自分の左側のセットするのですが、動きの激しいパッセージの時などにこのシールドが左腕に絡んだりするのです。

それが嫌で、どこのスタジオに行ってもヘッドフォンを装着する時に「すいませ〜ん、なにかガムテか何かでシールドを止めるモノくださ〜い」。

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だいたいのスタジオではガムテープでヘッドフォンからダラリと垂れるシールドを背中や肩の部分で固定しキューボックスとの間で演奏中にシールドが腕に絡みつかないようにします。何度も行くスタジオでは僕専用(?)のクリップを用意してくれていて、シールドを通したクリップを腰のベルト受けに固定して常に身体の後ろにシールドが垂れるようにします。
これでシールドに悩まされる事もなし!

で、話は最新アルバム『STREAM OF LIFE』の時のこと。

僕の正面のブースにはピアノの市川秀男さん、左のブースにはベースの鈴木良雄さん、右のブースにはドラムの大坂昌彦くん。
それぞれのブースがガラス越しに見渡せるのでキューボックスからの音に加えアイコンタクトもバッチリ。

さて録音は順調に進みガーシュインの“My Man's Gone Now”に。
この曲はアレンジの都合で譜面が5ページに渡りフォームなどの打ち合わせをやりつつ、「じゃ、一回通し(最初から最後まで演奏する)てみましょう」と音を出しながら分数の目安(アルバム制作では重要)やそれぞれのソロの感じなどを試す。
仮の録音と言ってこの時の状態を録音して(もちろん初見状態だから本採用は考えていない)最終的な演奏構成や録音される音に関してのチェックを行う。
ひとしきりミキサールームでプレイバックしながらの作戦会議(笑)が終了すると、さあ本番。
何度もテイクを録るとまとまりは出るが新鮮さが失せてしまうので多くても2テイクしか録らない。

さあファーストテイク。
まだ曲の構成に慣れてない部分がある。

続いてセカンドテイク。
これは演奏中から「決まり!」の予感に満ちていた。
「よ〜し!これでバッチリだ」

そう思いながら、最後のエンディングに入った時だった・・・・

最後はイントロと同じ部分を繰り返しながら僕と市川さんがチェイサー(掛け合い)に突入してフェードアウト、という構成。

エンディングに入って暫くした時の事だった・・・・

佳境に突入して「これから」という瞬間に・・・・

「あれ」

突然僕のヘッドフォンから何の音も聞こえなくなった

どひゃ〜

他のメンバーは何事も無く演奏している。
しかも物凄いヴォルテージで。

キューボックスのほうを見ると・・・
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ナント、事もあろうか、ヘッドフォンのシールドを足で引っ掛けて抜いてしまったのだ

とっさにヘッドフォンの片耳を外し、耳を澄ます。

すると隣りの大坂くんのドラムの音がかすかに聞こえる

しめた!

ベースもピアノも聞こえないけど幸いにもリズムのアクセントが決まっている繰り返しの中、しかもコードも同じコードの繰り返し。

この間あとで録音を聞くと0コンマ何秒。自分では随分間が空いた気がしたが、火事場の馬鹿力とでもいうのでしょうか・・

かすかに聞こえるドラムのキックと叩いている大坂くんの動きを見ながら演奏を続行。合っているのかどうかもわからないが、キックを頼りに確信をもってチェイサーにもつれ込む。もはやヴォルテージの上がったバンドを止める事は不可能。しかも曲の最後の最後だ。自分の長年の勘を信じるしかない。

そんなドキドキの状態で演奏したテイクをプレイバック。
一瞬動揺した瞬間もあるが、不自然ではなかった。
よってそのまま本採用。アクシデントとならずハプニングに。

こんなウラ話を見ながら聞くと、「STREAM OF LIFE」が一味違って楽しめるでしょう。

気をつけよう、足元とシールドの絡み具合!

おしまい



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