2008/3/20

LoveにまつわるLetter・・・鈴木良雄  木曜:Jazz & Classic Library

本日のBGMはどれかな?
赤松敏弘MySpace
只今開設記念期間。試聴6曲フルバージョン。
スクロールアルバム登場(3月20日)

“Love”という言葉を表題に使ったアルバムはたくさんありますが、歌詞のないインスト・ミュージックでこの言葉をタイトルに使うのはその内容に寸分のブレがあっては成立ちません。
歌詞に“Love”を載せる事はリスナーへのメッセージとして一番受け入れやすい感情ワードですが、インストだけでそれを表わすというのはよほどの自信がなければ「ヲイヲイ!」ってツッコミで終わってしまいます。

そんな“Love”を表題にした心休まるアルバムを紹介します。

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『LOVE LETTER/鈴木良雄Bass Talk』(one/2007年)

鈴木良雄さんこと“チンさん”の最新アルバムが先日届きました。
僕はライターではないので、一人のミュージシャンとしてこのアルバムを聞いていたのですが、なんだか何か書きたくなってしまいました。

これまでにもココで少数ながら邦人のアルバムも紹介させていただきましたが、なかなか音楽家が音楽家にコメントを書く、なぁ〜んて「勇気」のいる事なんです。
だから本当に気持ちが押し上げないと、ここで触れる事はないのです。
友達だから、とか知合いだから、というのでは書けないのですね。
まぁ、ライターではないから御勘弁を。

「日本一のスペース・コンダクター」と僕は勝手にチンさんの事を呼んでいますが、そもそもチンさんと出会ったのはまだバークリー在学中の1989年の寒い冬の事でした。アメリカをツアー中のチンさんのバンドがボストンのバークリーで公演すると言うので観に行ったのです。子供の頃からナベサダさんのアルバムなどでチンさんの演奏と名前は知っていたのですが、実際に演奏するのを見るのはこの時が初めて。

チンさんは1985年まで長らくニューヨークを拠点に演奏活動していたので僕が東京に出てから見る事が出来なかったのです。
終演後に少し会話をして、その年の夏にバークリーを卒業した僕は帰国後すぐにチンさんの家に遊びに行きました。
巡り合わせとは不思議なもので、渡米前に仲間のミュージシャンから「チンさんときっと話しが合うよ」と言われていた事もあってです。

そこでニューヨーク時代にチンさんがピアノとキーボードとシーケンサーを使ってセルフレコーディングしたアルバムを聞かせてくれたのですが、これが恐ろしく衝撃的でした。

僕自身、渡米前に「同じコード、同じ楽器、同じ曲をやっても、絶対に日本人らしさがあるはずだ」という信念を持っていたのですが、その演奏を聞いて目からウロコでした。

帰国直後の僕はいつの間にか技巧を過信した上で演奏や作曲を行っていたのですね。
帰って間も無い頃にこのショックを受けて改めて自分をリセットしたのを覚えています。

それは、きっと海外で暮らした事のある日本人ならわかると思いますが、洗練された「和」の響きだったのです。
下手に雰囲気だけで和楽器などを使うわけでもなく、ベタに東洋を売り物にするのでもなく、ごく自然に目の前にあるピアノやキーボードから発せられる、現代人の感性に訴えかける音楽。
そこには上質の隙間がありました。
考え抜かれて、計算しつくされていても、心地よい響き。

それ以来、僕は勝手にチンさんの事を日本一のスペース・コンダクターと思っています。

さて、このチンさんの最新作『Love Letter』。
1曲目からいつものチンさんの音楽が持つ洗練された空間が僕の部屋の空気まで変えてしまいます。
リリカル、という言葉で表現するとあまりにも言葉が軽く感じられる音楽。
それでいて最上のクッションが効いた音楽。
もしも、音楽に包容力というものがあるとしたら、それを体験出来る空間が始まるのですよ。

ともすれば主義主張で塗り固めて、メチャンコな怒濤の洪水の中で発するジャズも無いわけではありませんが、正直、もう今の時代では疲れます(笑)。

でもチンさんのキャリアを見れば、僕ら以上にその怒濤・激動の中を生き抜いてきた演奏家である事がわかります。
それらを通過してこそ生まれた最上のクッションなのですね。
だから、軟弱な音楽ではないところが人気の秘密なのでしょう。

僕も参加させていただいた80年代後半のバンド“MATSURI”、93年から2002年までのバンド“EAST BOUNCE”、そして01年から立ち上げた現在のバンド“BASS TALK”。そのどれを聞いてもこの洗練されたクッションは変わりません。
聴き手が一番心地よくなるところでメッセージを伝えるのです。

変わらないと書いたけど、今回のアルバムは“BASS TALK”としては初めてのアルバムなんだそうです。意外でした。

1曲毎に展開されるメッセージ“Love”。
これまでのアルバムよりもずっとファミリアな“Love”で溢れているのですね。
だからこのアルバムは、ちょっと気取ったりカッコつけたりする“Love”ではなく、日常の中の愛おしいもの達への“Love”な感じがします。

もしも、生活の中で、音楽それもインスト、しかもジャズの空気が好きで、なおかつ心地よい時間を過したいと思う方には絶対にお薦めです。
この中には、かつて僕がショックを受けたチンさんの「和」に対するエッセンスが、今のチンさんの感性によって組み上げられているような、そんな気持ちがします。

ひょっとするとこの感触は今の日本で暮らしている人にだけ感じられるものかもしれません。
もしも、海外でこのアルバムを聞いたら、きっとみんな「JAPAN」という印象を持つかも。
それこそが、チンさんが長年掛かって築き上げている“Love”なのかも、ね。

おしまい



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