2011/2/24

時空を超えた絶対的演奏印象のトリオジャズ・・・・Chick Corea  木曜:Jazz & Classic Library


チック・コリアほどジャズ界のヒットメーカーはいないだろう。
1970年代以降、世界中でプロのジャズメンを目指す若者が一度は演奏しただろう彼の「スペイン」や「ラ・フィエスタ」、「ハンプティー・ダンプティー」、「フレンズ」など、ちょっと思いつくだけでも数えきれないほどのヒット曲を有する現代最高のジャズ・コンポーザーという顔と、ピアニスト、キーボーディストという二つの顔を自由に行き来する、実にバランスの取れた音楽活動を記録し続けている。

同世代のもう一人の重鎮でもあるキース・ジャレットがピアニストとしては一歩リードするものの、キース・ジャレットの曲となるとチック・コリアほど一般的に浸透した曲があるとは言えないところが面白い。そういう目と耳で言えば、キース・ジャレットは「ケルン・コンサート」や「スタンダーズ」などで、その演奏による印象が圧倒的に記憶に刻まれているわけだ。キース・ジャレットは「演奏」にこそ基準がある。

僕はどちらも好きなのだけど、ちょっぴり“へんくつ”なのかもしれないが、そのキース・ジャレットの「基準」をチック・コリアに当てはめてみると、これが随分と遡ってしまう事に今さらながら戸惑ってしまった。

数々の有名曲が収録された『リターン・トゥ・フォーエバー』や『ライト・アズ・ア・フェザー』、『フレンズ』や『ザ・マッドハッター』、あるいはエレクトリック・バンドなど、ジャズ界では異例なほどヒットしたアルバムがたくさんあるのに、決定的に「コレがチック・コリアの演奏だ」という印象に残るシーンを思い出そうとしてもなかなか出て来ない。全てバランスよくアルバムの曲とサウンドが強烈に印象に残っているからだ。

すると、「これがチック・コリアだ!」という僕なりの「演奏」に心惹かれたアルバムとなると、71年に残したECM初期のソロ・ピアノによる『Piano Improvisations Vol. 1』にまで遡ってしまう。
チック・コリアという個性がピアノに溢れた素晴らしい作品で、同時期にキース・ジャレットが同じECMに残したソロ・ピアノによる『Facing You』(1971年)と共に、「こんなジャズがあるならジャズを一生の生業にするのも悪くはないな」と中学生の僕の後押しをしてくれた。

しかし、ソロ・ピアノは確かに本人だけだし、ある意味個性に溢れるのは当然としてみれば、ありきたりのフォーマットであるピアノ・トリオでの演奏にもう一枚「絶対的演奏印象」のチック・コリアの記憶があった。


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『Now He Sings, Now He Sobs』(solid state/1968年)

何かにつけ引き合いに出てしまうキース・ジャレットの初リーダー作『Life Between The Exit Signs』(voltex/1967年)と同じ頃に発売されていた本作。
日本でも注目されていた二人なので当時スイング・ジャーナルが半ば学習書でもあった僕はカラー広告で載っていたこの二つのアルバムを中学に入ってから購入した。

かなりアヴァンギャルドな演奏もあるキース・ジャレットに比べると子供心に「いぶし銀」のような演奏とこのチック・コリアのアルバムは感じていた。

高校時代にLPの盤面は擦り切れるほど聴いてもう再生も困難な状態となって実家の倉庫に眠っているのだけど、最近ソリッド・ステート盤の復刻でCDを手にした。

いやはや、、アナログの音は耳に優しいね、、とか何とか言いながらも、小学生時代から中学生初期に買ったLPは扱いも雑だったので傷も多いから、こうやって「ノイズなし」のCDで改めて聴いてみると、初めて聴こえてくるような「音」もあり、やはりクリアーなCD音はいいね。
ターンテーブルの回転ロスによるピッチのズレもないし。

さて、この「ナウ・ヒー・シングス、ナウ・ヒー・ソブス」。
間違いなくチック・コリアのトリオ最高傑作だと思う。

1968年という時代を知っている人ならわかると思うけど(僕も子供ながらに記憶している)、喧騒の時代の中でこの恐ろしくクールなピアノタッチが記録されている事に改めて驚きだ。

少し後に出た『A・R・C』も素晴らしくシャープなサウンドでココロ惹かれたのだけど、そこでは後の『Circle』への序曲(フリー・ジャズへの接近)が始まっていて、正直なところ僕は一曲目の“ネフェルティティ”以外はあまり聴かなかった。

その点、このアルバムはチック・コリアらしく均整のとれたコンセプトで、しかも曲よりもチック・コリアのピアノに耳が吸い込まれて行く。

一曲目“Steps 〜 What Was”は知的なテーマを持つコンテンポラリー・ブルース。ベースのミロスラフ・ヴィトウスとドラムのロイ・ヘインズとのインタープレイが御機嫌。
この時期のミロスラフ・ヴィトウスはどのアルバムを聞いても信じられないほど冴え渡っていると思う。
また、ロイ・ヘインズのドライヴ感が三位一体のグルーヴに大きく作用しているのも聞きどころ。
メドレーで始まるのは後の「ラ・フィエスタ」を彷彿とさせるスパニッシュな曲。後年『リターン・トゥ・フォーエバー』で「ラ・フィエスタ」を初めて聴いた時、どこかで聴いた事がある曲に聴こえたのはこの曲を先に聴いていたからだった。

初期のチック・コリアの作品では最も有名なのが二曲目の“Matrix”。
僕等も駆けだしの頃のジャムセッションではよく演奏した曲だ。
瑞々しいタッチのチック・コリアのピアノがCD化で一層引き立った。
人によってはこれを「無表情」という人もいるが、この頭の中を高速回転しながら臨界に達するエクスタシーを「クール」と呼ばすして何と呼ぶ!
ヴィトウスの閃きに溢れたソロに加えて、ヘインズの独特のパルス構成によるバースが実に面白い。チャーリー・パーカーと共演していたドラマーとはとても思えない斬新なアイデアだ。

三曲目はタイトル・ソングの“Now He Sings, Now He Sobs”。
タイトル・ソングなのだけど意外と記憶には薄かった。改めて聴くとこんな曲だったんだなって(笑)。

四曲目“Now He Beats The Drum - Now He Stops”はコンテンポラリー・ミュージック的なアプローチから始まる。コロコロとしたチック・コリアのピアノ・タッチはこの頃から確立されていたわけだ。
リズム・インからトリオとなり、ダブルタイム・フィールから徐々にスイングして行く自然な展開がカッコいい。
ひょっとしたら今(当時)最高にカッコいいジャズ、それを描いたのかもしれないね。
それにしてもヴィトウス 〜 ヘインズのリズムセクションは御機嫌。まったく無駄な音がない。

最後の“The Law Of Falling And Catching Up”はさらにコンテンポラリーな出だし。このままフリージャズに突入するか・・・・・という一歩手前で終わる短いエピローグ。この長さなら飽きる事はないちょうどよい長さ。さすが均整の取れたチック・コリアだ。

今から43年も前に、これだけ洗練されたピアノ・スタイルを持ったピアニストが登場したら、そりゃ、誰もが注目するのも当たり前だ。
それを100%記録したチック・コリアのピアノ・トリオ最高作。





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