大阪市浪速区の個室ビデオ店「試写室キャッツなんば店」の放火事件で、殺人容疑などで逮捕された無職、小川和弘容疑者(46)が事件の半日前、奈良県内の宗教施設で南米原産の植物を煮出し、幻覚作用をもたらすお茶を飲んでいたことが14日、わかった。同行した男性は「頭がぼーっとして幻覚をみた」と証言。小川容疑者も服用直後に涙を流したり、叫んだりしたが、施設を離れるときには元の落ち着いた状態に戻っていたという。
小川容疑者が飲んだのは、ブラジル発祥の宗教「サント・ダイミ教」の儀式に用いられる「ダイミ茶」で、幻覚作用の持続時間は約2〜6時間とされる。
小川容疑者の場合、服用から犯行までに10時間以上経過し、幻覚作用は消えていたとみられるが、浪速署捜査本部は、小川容疑者の心理状況に何らかの影響を及ぼしていなかったか慎重に調べる方針。
関係者によると、小川容疑者は9月29日夜、大阪・心斎橋の路上で出会った露天商の男性(43)に「ハーブを飲みに行こう」と誘われ、30日午後1時ごろ、露天商の知人のミュージシャン(32)と3人で奈良県内の宗教関係者(55)宅を訪問した。
同宅では、宗教のワークショップが開かれ、祈りの後、午後2時と4時の2回、30ccずつダイミ茶を飲んだ。ミュージシャンは「すぐに頭がぼーっとした」「考えていることが別人の声で聞こえた」と幻覚作用があったことを認めた。
一方、小川容疑者は1回目の服用後は変わった様子を見せなかったが、2回目の後、テーブルの脚にもたれながら涙を流し始めた。さらに願い事を書く紙を渡され、「そんな資格などない」と泣き叫ぶような声を上げたという。
3人は午後11時ごろに同宅を出たが、ミュージシャンは「そのころには頭ははっきりしていた」と証言。小川容疑者は「こんなに幸せな気分になれたのは初めてです」と宗教関係者に礼を言っていたという。
3人は近くの駅で別れ、小川容疑者と露天商は電車で難波に向かった。2人はラーメン店で食事後、翌午前1時半ごろにキャッツに入店。小川容疑者が放火したのは同2時55分ごろで、ダイミ茶の服用から約11時間経っていた。
宗教関係者は産経新聞の取材に「幸せな気分になった後、大阪のどろどろしたところへ行って精神的にがくっときたのではないか。小川容疑者が帰るときにはちゃんと効果は冷めていた」と話している。
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小川容疑者が飲用したダイミ茶は、南米のアマゾン川流域に自生するつる状植物「アヤワスカ」が主原料。煮出して飲むと強い幻覚作用があり、現地では宗教儀式や民間療法に用いられている。
厚労省によると、アヤワスカからは麻薬取締法で規制されている向精神性成分「ジメチルトリプタミン」(DMT)と、薬事法で規制されている「5メドキシDMT」が検出された例があるという。
このため、アヤワスカの抽出物を所持すると処罰対象になる可能性もある。ただ、同省は「情報が少なく国内にどれだけ入ってきているのか実態がわからない」としており、事実上野放しの状態になっている。
一方、小川容疑者らに提供した宗教関係者は「ダイミ茶はブラジルの教団本部から送られてくる。合法か非合法かはよくわからないが、これまでずっと使ってきたし、事件後に警察に提出したが何も言われていない」としている。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/081015/crm0810150153003-n1.htm
(産経ニュース 2008.10.15 01:51)

驚くべきニュースだ。京都にサント・ダイミに関連した宗教施設があることは伝聞で知ってはいたが、まさかこんな形で世間の耳目を集めるとは。
サイケデリックスには意識変容作用による強力なセラピーとしての効果とともに、自我境界の検閲が半ば強制的に弛むために、本人が無意識に抑圧している様々なネガティブな要素(感情、思考、欲望、etc)が顕在意識によびおこされてしまうという危険性を常にはらむ。これがバッド・トリップであるが、これは体験中にトリップとして体験される狭義のバッド・トリップのビジョンである。もう一つはトリップ終了後に影響を与えるセラピー的作用、トリップよって生じる気づきの体験によってその後の人生観を一変させるようなトランスパーソナルの体験があり、これはあるその人の人生の意味を一度否定するという意味においては、広義のバッドトリップといえるかもしれない。アヤワスカは向精神性のサイケデリックスとしてはもっとも幻覚作用が強い物質であり、そのセラピー的な作用も強烈なバッドトリップによる死と再生の経験にあるといわれる。
記事による推測になるが、この容疑者はダイミ茶を飲んだ宗教施設を離れた後、ラーメン店へ入ったりしていることから、この頃にはトリップの影響からはさめていると思われる。しかしトリップの体験中には涙を流すような激しい感情表出を伴いながら、「そんな資格などない」と泣き叫ぶような声を上げたということからわかるように、激しい自責的な念に駆られていたことがわかる。このアヤワスカによる自己否定的な感情が、ビデオ店に入った後も再び思い出され、衝動的に自殺企図へ及んだのではないかと推測される。
なぜ、知り合って数日の人間とともにサント・ダイミに関連するような、コアな教団にアクセスすることになったのか、容疑者の背景にも関心が向かうが、この容疑者がサイケデリクスに対する知識や経験が不足していたとするならば、トリップ後のケアが不十分であったといえるかもしれない。
様々なサイケデリックスは現代においても未だフロンティアであり続ける、人間の意識を探求する上で不可欠なものだ。それ故に危険性も大きく、安易な楽観論だけでなく、その利点欠点を十分把握した上で、万全の体制のもとで使用されるべきものだ。アマゾンのみならず、古来からのシャーマニスティックな儀式においても儀式そのものがその安全性を保証する装置になっているわけで、ティモシー・リアリーがいみじくも60年代から警告している、セットとセッティング、レクリエーショナルな使用を控えるように喚起している意味はここにある。
精神科の薬物療法の分野でも精神病の病型をサイコアクティブな物質の作用をモデルにする動きが主流となりつつあり、現在はDMTモデルが次世代の戦略として期待されており、また認知科学の分野においてもDMTの影響下における意識のモデリングが次のフロンティアとして注目されている。今回の事件は不幸なことであり、犠牲者の命はなにごとにも変えられないものであるが、物質そのものに善悪があるわけではなく、その使用者に責任が課せられるもでのであることを明記したい。そしてサイケデリックスによる様々な可能性が偏見や誤った使用によって閉ざされることのないように注意したい。
アヤワスカ wikipedia

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