16時間近いフライトを終え、ブリュッセルの空港へ到着する。日本発とGlobal Journey組は各国から到着するなかでも、最も遅い組だ。現地時間の0時近く。昨年は日本発のチケットがJTBが全て抑えていたために、個人申し込みのファンたちは韓国発のチケットを取らなくてはならなかった。その点今年はJTBグループと同じ便だ。
ブリュッセルの空港に到着し、ホテルにチェックインする。去年同様ブリュッセルの空港にはTomorrowlandの特設カウンターが。妖精のように美しいTomorrowlandガールがこんな遅い時間にもかかわらず、笑顔で迎えてくれる。長い旅の疲れも一気にほころぶというものだ。こういったTomorrowland的なおもてなし、は凄く高いレベルでTomorrowlanmdというフェスを貫いている。日本人の予想でさえ、さら越えているレベル。
ホテルにチェックインするが、そこでも妖精のようなコスプレをしたお姉ちゃんが、「あなた達を待ってたのよ!最後のお客さんだから」と0時を回っても待っていてくれる。
TVを点けると現地のNHKのようなニュースで明日のTomorrowlandのことを報道している。カトリックの司祭や現地Boomの住民たちを招いて、説明会や簡単なパーティでもてなしたという話。概ね好意的な印象のようだ。こうやって周囲の理解を得る活動をしているところも精力的だ。
TomorrowlandのGlobal Journeyパッケージ(航空券とホテル、入場チケット。JTBのツアーも含む)の参加者たちの1日は、12:00に各ホテルから出発するバスによって始まる。
このバスは基本的には1日に2度、行きの12:00のバスと、帰りの25:00のバスの2本のみだ。必然的に、自分たちのペースで行動したい方々はタクシーでご自由にどうぞ、という姿勢。けれども、タクシーだと70〜100ユーロかかるので、なるべくバスで移動したい。
初日のTomorrowlandを終えてのとりあえずの感想は、やはりこの場は特別だと皆が感じており、観客のパワーは凄まじいものがあるということ。特にメインステージの熱気は凄まじく、夕方にはすり鉢状になった斜面の上の方まで、観客で埋まってしまった。
入場してすぐ感じたのは、各国対抗応援合戦の様相が昨年度よりも更に強まり、マントのように国旗を背負っている人の多いこと多いこと。おおよそ昨年比の5倍程ではないだろうか。遠くはチリやメキシコ、ブラジルといった南米から。もちろん、日本も相当遠い部類。今回はアメリカ人がやたらと増えていて、皆、キャプテン・アメリカみたいな男たちとチアリーダーみたいな女性たちとの組み合わせですぐにアメリカ人だとわかる。これは現在のEDMの中心がアメリカのマーケットに移っていることを如実に反映している。
もうひとつの変化、あるいは進化は、コスプレ感が更に激しくなっていること。Weekend1では初音ミクのコスプレがいたそうだが、各自オリジナルな珍妙なコスプレは周囲の目を楽しませる、パーティには欠かせない要素だ。これにそことなく日本のコスプレの影響を感じて嬉しいし、このEDMのムーブメントがネット時代のグローバル化を大きな文化的背景にしていることを感じる。
そうしたグローバル化が進むにつれ、逆に自国の文化を見つめ直し、自らのアイデンティティと国の良い部分をアピールすることはとても健全な事だ。様々な人から、彼らが知る限りの日本語で話しかけられたり、互いの格好を突っ込みあったりするのはとても楽しい。ここで自然発生的に行われている実験の一つは、グローバル化とは偏見を超えて他者と仲良くすること、音楽のビートが人々を一つに繋いでくれるという事実だ。
音楽というプレ言語による共感覚をベースにしたテレパシックなコミュニケーション。アイコンタクトと身振り、笑顔で、大事な事は殆んど伝わる。それは今この瞬間が最高!ってことだ。それだけで充分だろう?
1日目のトピックは、EDMシーンにおけるこの1年でのベースシーンの躍進についてだ。
Steve Aoki率いるDim Makと、Diplo率いるMad Decent。アメリカのベースミュージックを牽引する2大レーベルが、この日はそれぞれDim MakステージとMad Decentステージを開催していた。
昨年のTomorrowlandの最終日の大トリを務めたSteve Aokiが、そのセットの最後でドロップした楽曲は、彼の"Get Me Outta Here (feat. Flux Pavilion)"というダブステップの新曲だった。
SkrillexやDeadmau5と並び、アメリカのEDMシーンの最重要アイコンのひとりであるSteve Aokiが、そのEDMの震源地であるヨーロッパの、その中でも最大のフェスティバルであるTomorrowlandの3日間の大トリに抜擢されたこと。
そして、その最後の大団円としてドロップした楽曲が、UK発祥のDubstepというスタイルの、現在の最重要プロデューサーのひとりである、UKのFlux Pavilionをフィーチャーしたトラックであったこと。また、そのトラックを、アメリカ出身の日系二世であるAokiが、Tomorrowlandのラストにドロップしたこと。
この、ヨーロッパとUK、アメリカ、そして日本を含むアジアが渾然一体となったグローバルな空間、小宇宙を作り上げたAokiの才能の本質は、荒っぽいDJingやケーキ投げといった、スノッブな音楽ファンからは鼻でせせら笑われてきた、一見、表層的で感覚的なパフォーマンスにあるのではなく、こうした空間を計算ずくで作り上げる知性にある。彼はどこまでも動物的で、本能的で、そして知的だ。
その"Get Me Outta Here (feat. Flux Pavilion)"は、初披露から1年が過ぎた今もまだリリースされておらず、この9月にリリースされる彼のアルバム"Neon Future I"に収録されるようだ。
また、今年のDiploのメインステージへの登場も重要な出来事のひとつだ。
昨年はDog Bloodでの来日の最中であったSkrillexも、一昨年以来にTomorrowlandへ戻ってきた。
Big Roomと言われる、Hardwellや彼の率いるRevealed Recordingsなどに代表される、四つ打ちのキャッチーなスタイル。その中でも特に、Martin Garrixという若い新しいスターの登場がこの1年のEDMシーンの表のトピックだったとすれば(Martin GarrixはDiorの今年の春夏にミュージックディレクターに採用されたほど)、もう一つの裏のトピックは、上記の128bpmのビートに飽き足らない、ヒップホップマナーの洗礼を受けたアメリカ人たちが、ヒップホップをベースにしたTrap、ジャマイカンやカリビアンのビートをベースにしたTwerk、そして依然ビート偏差値が高いDubstepの更なる混合など、様々なビートをトランス化させようという実験が着実に支持を受けつつあるということだ。
修練の必要のないシンプルなジャンピングがそのダンスのスタイルであるBig Roomから、深く楽しむには一定のダンストレーニングが要求される、複合的で訛りのあるリズムの、Trap、Twerk、Dubstepまで。
それらのどれで踊ることもその人の自由だし、特にこうした巨大フェスティバルでは選択肢は広く、その瞬間の気分でステージを選べば良いだろう。結局のところ、どのように踊ろうと誰も気にしないし、各自の自由だ。ダンスの目的はそれをマスターすることではなく、ダンスすることそのものなのだから。
Dim Mak stageにはCarnage(このプエルトリコ出身のDJは2日目のメインステージも)、Steve Aoki、イルミナティの怪人Borgore、#selfie ブームを巻き起こしたThe Chainsmokers、大御所Benny Bennassi、HardstyleからTrapまで縦横無尽のビート使いのオランダ出身のYellow Crewなどが出演。
Mad Decentステージには、Zeds Dead、Skrillexと並ぶ変態かつ天才のDillion Francis、変幻自在のスキルDJ SNAKE、御大Diplo、そして最大の話題はアメリカで大麻をテーマにした曲ばかりを発表し、大麻解放運動の急先鋒である、TrapのイノベイターFlosstradomsの出演だろう。
1日目はAndrew Rayelなどの良質のトランス勢を冷やかし、メインを何度かチェックしつつ、Mad DecentステージとDim Makステージの往復だった。しかし、このステージがTomorrowkand会場の端と端にあって、20分程も歩かなくてはならないため、大変だった。音も近い傾向でレーベルアーチストも重複することの多い2ステージは是非近くに位置して気軽に往復出来るようにして欲しかった。
Dim Makは全般的にDubstepが多めの攻撃的ビートで縦ノリが多く、Mad Decentはやや緩めでトッポいビートの中にニヤニヤさせられるマニアックな煙たいビートが多い。
そして一番の期待、FlosstradamusのMCプラスDJのステージングは圧巻であった。太い強大なベースに、Trap独特の拍を後ろにズラしたタメの効きまくったビート、腹の真ん中にドスンと決まる真っ黒なビートは不安を煽りつつクラウドを扇動する肝っ玉の座ったものだった。ちなみに筆者は、FlossのPLURNT Tシャツを着て行ったのだが、向こうから気づいてステージから降りてきてくれた!
その他にもFlosstradamusと自作でカップリング作をリリースするSteve Aokiが遊びに来ていて、またもや一緒に写真を撮ってくれたり、この日Mad Decentステージは楽しいことが沢山あり、ミーハー的にはラッキーの連続だった。
昨年に感じていた不満、ドリンク購入場所が少なく、下手すると1時間近くかかっていた問題も、フードコートが何箇所にも設置され、ほとんど待たずに購入が可能になり、フードコートが3〜4箇所に拡大し、椅子やテントも充分に設置され休む場所も充分。トイレはエコ仕様の水を8リットルしか使わない飛行機のバキュームタイプで常に清潔、など去年の不満を充分に対策してきていた。また、今年は入場のためのリストバンドが個人情報と紐付けられているためか、盗難被害も去年程聞かれず、非常に快適な環境になりつつある。去年までは、皆にプレッシャーを与えないように配慮され、設置されていなかった制服のガードマンが要所要所に居るようになったのが変化だが、この為にトラブルが減って居るようにも見える。
これはEDMシーンが産業として拡大してゆく中で、オーガナイザーが負わなくてはならない責任の一つかのも知れない。自由に管理を忍び込ませなくてはならないということだ。
さて次はDay2、MainにはULTRA JAPANで来日するHardwellとAlesso、TiestoとHardwellのデュオ、大好きなAbove&Beyond、Carnage、Super You and MeではBatman、Superman、Ironman(Laidback Luke、Martin SolveigらによるコスプレB2Bユニット。毎回アイアンマン他のヒーローに扮したスペシャルゲストが何名か)、V sessionsではSander van DoorenやTommy Trush、Dyro、Yves vなど錚々たる面々、個人的にはNeroとBassnectorは是非みたいが、Hardwell&Tiestoの裏だという悲劇!
雨さえ降らなければ最高の一日になりそうだが、今日の天気はどうだ。

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