
遅ればせながらというか、恥ずかしながらというか、今更ながらワインにはまっている。職場の近所に大きめのセラーを有した酒屋があるのを発見したからなのだが、お店に相談しながら、まずボルドーとブルゴーニュという一番基本的な産地から手を付け始めた。
2000円前後の安ワインからはじめて、まずは基本と思われるボルドーのメドックの村名ワインくらいから数本飲んでみて、渋みや味の固さに納得できず、デキャンタを買ってみたり、左岸から右岸に行ったり、いろいろと酒屋にリクエストを出してみたりで試行錯誤。どうにもイメージする味と相容れない。やはり安いワインでは駄目なのか。
そこでブルゴーニュに手を付けたところで一気にはまった。味わいのシンプルさ、すっきりとしたのどごしとしなやかさ、果実身の繊細さと余韻がイメージ通り。それからはブルゴーニュ一辺倒になりつつある。2000円程度のビオデナミのだったが、有機無農薬野菜で作った料理の食感と同様、すっきりと引っかかりのない口当たりに、葡萄自体がもつ果実身の豊かさが幸福感を沸き立たせ、後味は限りなくスムーズに消えてゆき、余韻が長く体に残り続ける、うーん、何たる幸せ。
フランスのブルゴーニュ地方のワインといえば、ロマネコンティが有名。よいものは価格で軽く数十万円を超える超高級ワインの代名詞。ブルゴーニュ地方のワイン、ピノ・ノワール種のブドウで作られたワインの最高峰なのであるが、ただ高いからと軽蔑するなかれ。ブルゴーニュもワインに特徴的な製法としてビオデナミ、と呼ばれる製法があるのだが、これは完全有機、無農薬栽培に加え、植物の成長を季節、天体の運行をもとにした占星術的なカレンダーで調整し、葡萄を取り巻く環境、そして宇宙全体との調和をもとにした栽培、醸造法のこと。フランス語ではビオディナミ、英語ではバイオダイナミック農法、すなわちシュタイナー農法のこと。
このシュタイナー農法の思想で作られたワインがワインとして非常に評価が高い。そして高価。そこに神秘主義と資本の逆転を見る。その面白さと痛快さ。そして実際に信じられないほど旨い。
GWからかれこれ一ヶ月、週に3本はあけている。それも殆どブルゴーニュで、ヴォーヌ・ロマネが特にヤバい。飲んだ瞬間から口腔内から同心円上に数メートルは一気に広がる薔薇の香り。するするといくらでも飲める。そしてどこまでも続く余韻。翌日の朝起床してからも口腔内、そして全身にのこる上品な薔薇の香り。週末飲んだのはヴォーヌ・ロマネ スショ '05。口当たりも柔らかく、全くの引っかかりのない、それでいて充分な果実味と若干の複雑味、そして限りなくゆっくりとフェードアウトしてゆく薔薇の余韻。
酒屋に行ってセラーに入るのが、何か宝物殿に侵入するみたいでワクワクする。今日はドメーヌ・ルロワのブルゴーニュでも飲もうか。ネゴシアンもの(2千円台)でも、ルロワのワイン。この後もシャンボール・ミュジニーやらなにやらが控えている。セラーを買おうか迷う迷うw。
ま、オーディオと同じで、完全にオタク趣味の世界のようなんですが、五感の感覚を言語化して、それを他者と共有するゲームの面白さ。オーディオであれば中域の張り出しがどうの空間の広がり位相差がどうのという蘊蓄も、個人固有の聴感が如何に他者と共有できるかというゲームの側面があるし、ワインのイチゴジャムの〜やら、干し草の〜などもそうなんだろう。しかし一番はオーディオにしてもワインにしても飲んで旨いという快楽が体験の中心であること、これが重要。
深みに入るほど先人たちの豊穣な世界が広がっているようで、右も左もわからない世界を探求してゆく楽しみもまた面白みの一つ。

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