こういうのって、必ず「ネタバレ注意」とか断るのがお約束になっていますが、公開前の話題だとか、公式サイトとかじゃない限り、大抵ネタバレなんですよね。
こないだ見た映画ですが、ついでに、「とりとめなし注意」でもありますよ。
後は「続きを読む」からどうぞ。
映画自体の予備知識はなくリチャード・ギア出演のアメリカ映画、ということで少々先入観があったせいもあってか、なかなか設定というかストーリーが理解できないもどかしさがありました。
スペリングに特異な才能をもった女の子、イライザが主人公で、その母親をジュリエット・ビノシュが演じているのですが、よその家に忍び込んでいるように見える彼女の行動が何なのか、ほとんど最後のほうまでわかりませんでした。
捕まってからようやくその意味するところが理解できたというざまで、浮気?それとも夫の浮気に気付いて苦しんでいるのか?なんて思っていたら、特定の家と決まっているというわけではないようだからどうも違うみたいだし、じゃあ、この娘の母親だからなにかスーパーナチュラルな能力に導かれてなにか因縁のあるものを回収でもしているのか、でも番犬にびっくりしたりしてるのはどういうことだ、という感じで見ていました。
子供のとき両親を亡くした交通事故現場に散乱していた車のガラスや割れた眼鏡のきらめきが記憶の底にあって、そういうものを収集することで、砕け散った過去を修復できるかのような錯覚で一時の心の安らぎを覚えてしまう強迫神経症が高じてしまった、というところが答えなんでしょうね。
リチャード・ギア演ずる父親のソールは、悪い人ではないし、人当たりもソフトなんだけど、独善的で自分のペースに調子よく周囲の人を巻き込んでいくようなタイプなんでしょう。
でも社会的地位もあって家庭もとりあえず円満で、自分のそんな欠点を全く自覚していないというのが始末に負えないわけです。
妻や息子も本人同様、そういうソールの底の浅さに気付かされることなく来てしまったようなところがあって、それが一気に噴出するきっかけになったのが、家族の中で目立たない存在だった娘のイライザがスペリング・コンテストを勝ち進んで父親の期待を一身に受けるようになったことだったのです。
しかし、それまで兄ほど父親に愛されてはいないと感じていたイライザは結構冷静で、言葉に関する天賦の才能のおかげもあってか、ソールの入れ込みように応えることよりも、むしろ家庭が崩壊していくことに心を痛めています。
ラストのスペリングコンテストの決勝で、前の晩に父親が出した練習問題と同じ出題がなされます。勝利を確信して笑いをかみ殺すソール。しかも、イライザは昨晩のことを思い出さずとも、その能力がはっきりと正解を告げてくれます。しかし、彼女は最後の瞬間、あえて違う答えを口にして、父親の追い求める完璧さに、軽やかに背を向けて見せるのです。高学年でない女の子が、全米2位といったら充分すごいのは言うまでもありませんが、ソールはがっくりうなだれて顔を上げることができません。このあたりにも彼のあり方がはっきりと現れています。
しかし、その「不完全さの肯定」というメッセージは、病院のテレビでコンテストを見ていた母親にははっきりと通じたことがほのめかされます。
もちろん、単純なハッピーエンドではありませんが、暗闇に光が差しこんでくるような、回復への兆しを感じさせる終わり方であるところに却って好感が持てました。
前述の母親の行動をめぐる謎や、父親があからさまな悪者として描かれていないあたりも、わかりにくいといえば非常にわかりにくいのですが、これほどドラマティックな形でなくてもどこに家庭にも起こりかねないような事態を描いた、アメリカ映画にはまれな含みのある語り口がこの作品の魅力でしょう。
イライザの才能をヴィジュアルで表現した手法も非常にセンスが良くて素敵でした。
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