日本における原子力発電所立地受入れの政治過程 (5)まとめ  政治のはなし

X まとめ

 日本の原発問題は、従来国家のエネルギー政策として語られることが多かった。しかしこれだけでは、日本の原発立地政策の特徴のひとつである、立地の遅滞の現状を説明することが難しかった。そこで本稿では、別の視角からも原発問題についてアプローチすることを目指し、とりわけ「地方」と「政治」に注目してその政治過程を分析した。大飯原発増設のケーススタディからは、原発受入れによる財源によって振興計画の実現を図ろうとする町アクターや、原発受入れの見返りとして地域振興計画への国の協力を要請しようとする県アクターの様子が浮かび上がった。そこには、原発を地域振興政策という視点から捉えている地方アクターの姿があり、そしてそのアクターは「迷惑施設」である原発をリソースとして積極的に活用することで、地域振興を達成しようと試みていたのである。また、原発政策にはアクターの3つのサブカテゴリーが設定することができ、それぞれに分類されるアクターはそれぞれ別の方向から原発問題に関わっていた。そして相互に独立しているアクター群を1つの「原発立地政策」として統合している政策ネットワークの存在を指摘することができた。さらに、そのネットワークには反対運動は加わっておらず、原発問題を政治争点化することはなかなかできないでいた。これは、80年代の社会党が抱えていたジレンマに由来するところがあったと考えられるが、そもそも原発問題の本質が全国的に薄く広がった「受益圏」の存在を背景としていたためでもあると考えることもできる。このように本稿では、地方アクターに焦点を当てた地域振興政策としての原発問題という視座を分析の中心に据えながら、政策ネットワーク、そして分離型紛争へと、徐々に考察の対象を拡大していき、日本の原発問題を概観してきたのである。
 原発を取り巻く昨今の状況は、現在急激な変化のまっただ中にあるといってもよいであろう。95年12月の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故以来相次いで報じられる原子力施設のトラブルと隠蔽工作の露見は、国の原子力行政に対する信頼を急速に失わせる結果となっているd96年8月新潟県巻町で行われた住民投票の結果、町長が町有地の売却を拒否して原発立地が暗礁に乗り上げ、国の原子力政策に大きな衝撃を与えた。研究レベルでは、原子力工学は往年の活気を失い、学生の「原子力離れ」は深刻であるという。その一方で電力需要の伸びからくる将来の電力不足が強調され、電力会社はメディアを通して原発の必要性を訴えている。これからも原発の問題は、我々の生活と深く関わり、少なからぬ影響を及ぼし続けるであろう。筆者が原発を研究対象として選んだ理由は、原発問題が重要な社会的関心事であるにもかかわらず、それについての整理がついておらず、まさに原発についての理解が混乱していると考えるためであった。受入れ過程の分析を通して原発問題について整理するということが本稿の目的の1つであったために、事象の総花的描写になった部分があることは否定できない。この精緻化は今後の大きな課題である。しかしながら、原発政策について多元的アクターの動きに焦点を当てた研究の蓄積はこれまで十分であったとはいえず、筆を措くにあたって、今後ますます原発問題への注目が高まることが予想される中で、その問題の理解と解決にとって、本稿で提示した枠組みが微力ながら一助となることを祈念してやまない。
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