私立高校の抱えた「質」と「量」というジレンマ  

 日本の私立高校は、2つの役割を担ってきた。
 ひとつは、独自の教育理念に基づいた学校教育を行うというものである。宗教教育、高度な職業専門教育、クラブ活動や受験指導など、その内容は学校によって異なる。
 もうひとつは、公立高校の枠から漏れてしまう子どもたちにも、高校教育を受ける機会を与えるという役割である。とくに高校進学率が上昇傾向にあった時代、公立高校の量的な不足を私立高校が引き受けたという例がある。
 いずれも、公立高校では提供することのできない高校教育を、私学が担ってきたという点では共通する。乱暴な割り切り方をすれば、前者は「質」の面で、後者は「量」の面で、高校教育をサポートしてきたということができる。それは、戦前の中等学校においてもそうであったし、戦後の新制高等学校でもそれは変わらなかった。
(だから、前者しか存在しない私立中学校と、後者が一定の割合を占める私立高校とでは、同じ「私学」でも性質が異なる。)
 もっとも、公立高校に入ることが難しい生徒に、あるいは公立高校からはみ出した生徒たちに、居場所を与えて寄り添うことを目的とした私立高校など、「質」か「量」かと割り切ることは、簡単なことではない。

 公立高校の経営方針の根底には「標準化」がある。義務教育学校ほど顕著ではないが、教育費についても人事についても、学校ごとの特色は持たせながらも、一定の枠の中に納まっている。そもそも経営母体が共通なので、それぞれの学校は大企業の支店に相当する。
 これに対して、私立高校は「差別化」によって輪郭を浮かび上がらせなければならない。それは「個性化」であり「多様化」へのドライブを秘めていた。

 今、私立高校が直面しているジレンマは、私学の発足以来担ってきた「質」と「量」との両立が、高校全入時代における学齢人口の減少という事態に直面したことによる。
 私学教育の自由を強調しながら、今こそ建学の理念に立ち返って、困難に立ち向かおう、と檄を飛ばすものの、それは大いなる競争と淘汰の時代を自ら宣言することである。
 一方で、私立高校が多くの生徒を引き受けている(とりわけ都市部ではきわめて高い)。その議論は、私学助成の拡充や、高校授業料無償化政策の対象の拡大(「私学も無償に!」)というものにつながる。「Support but No Control」の要求は、このご時世に通用するかどうか。
 「私学も無償に!」は、「これだけの学費の格差があっては、公平な競争ができない。まずは無償にして、あるいはもっと学費の差を縮めて、そこから公立と私立とが競争するのでなければ、フェアではない」というのが、公式見解である。しかし、この主張が世論の支持を集めているとは、とても思えない。実際問題として、公立より私立の方が設備が充実しているところが少なくないこともあって、「それなら公立に行けばいい」となるからであろう。この点については、実は私学関係者の一部からも、プレミアがあるからこその私学らしさだ(それじゃ公立と変わらないじゃないか!)、として、私学無償化運動に反対する人もいる。
 そこで次に、「教育を受ける権利」「受けたい教育を選択する権利」の保障という、「私学教育の自由」を、教授する側から生徒・保護者の側に切り替えた議論が登場する。これは主体的に教育を選択する自由に訴え、「私学の無償化」へとつなげる主張であるが、実はこれは、「学校教育を消費財としてとらえる」という点で(私学助成運動の中では批判タラタラの)新自由主義的な発想ときわめて親和性が高い。
 私学教育を保障することは、民主主義を涵養するという点からも重要である。教育法学からも、そのような援護射撃は寄せられている。ただしこの議論は、「どの程度まで私学を残すか」という問題に解答を与えない。
 各公立高校を学校法人化し、経常費助成を拡充する一方で、教職員の雇用を各学校法人と結ぶことにして、事実上の「公設民営」学校を増やすことで、都道府県の教育費を削減することは可能である。ただしこの議論は、きわめて評判が悪い。「標準化」という公立高校の存在意義を否定するものであり、実際、公立病院が法人化や研修制度の変化によって悲惨な状況に陥っているのを見るに、地域間格差という点から得策ではないと思う。

 まだ考えがまとまり切っていないので、そろそろこのあたりで。
 とにかく、「住宅や医療のような国民生活を支えるインフラとしての学校教育が、どのようなセクターによってどのように供給されるべきか」という社会政策論として、学校教育の問題を整理したとき、やはり私立高校の果たしてきた2つの役割の大きさと、それゆえに今の私立高校が抱えているジレンマとを、改めて考えざるを得ないのである。
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