これでイタリアは変革する!
歴史的な憲法改正案が2016/04/12日、下院で憲法規定に基づく2回目の審議で可決された。 当日、イランを訪問中のレンツィ首相はツイッターで「感激だ。これでイタリアは変革する」と語りました。
最悪経済を脱し緩い経済成長が始まった昨年ようやく +0,8%、
今年 +1,1% の経済成長が見込まれています。
失業率 -1%(11万人の教員採用常雇用)、所得効果+0.8%。
若い首相はEU連合国内にあって前モンティ政権の緊縮財政改革路線からフレキッシブル(雇用増させる財政)へシフトさせ、移民者問題でリーダシップを発揮しています。 経済危機の5年間が終わった2015年、世論の動向を計る市民の 不安度は不安材料を高い順に挙げるといずれも2015年に比較;
食べ物 +5%(遺伝子変更)、
子供達の将来 −9%(失業者減)、
新しい世界戦争の勃発 +4%(新冷戦)、
テロリズム+7%、
失業率 -11%、
マフィア犯罪 −7%、
その結果、レンツイ政権への支持率は政権掌握以後、平均50%近くを得て高いです。
一方、市民の諸制度への信頼度は上から
1.ローマカトリック教皇、
2.治安力 軍と警察 犯罪総数は3年間で35万件減、
3.大統領
信頼度最下位は
1.諸政党が3-5%、
2.国会は10%以下、
3.国家は30から15%に超急落。
なお、EU連合諸国は40%割れ、
三大労組連合(CGIL,CISL,UIL)への信頼度は14年には15,5%に低下しました。
前総選挙後の政党再編成
前回のイタリア総選挙は2013年2月24/25日に前モンティ政権の財政改革路線の是非を問う渦中に実施されましたが2008年4月の総選挙より7.4ポイントも下がって、下院の投票率は55.2%と史上最低を記録しました。
結果はPDが下院で安定多数を獲得したが上院で過半数に達しなく、政治的混乱を招きました。(下表イタリア政治勢力参照)総選挙は“老害”を訴える若い世代と旧指導者層の対立が緊張を生みました。この総選挙で第1党に成ったPD民主党は組閣のため多数派工作を開始しましたが、PD自身が失敗して<廃品回収(老害追放)>を叫ぶ39歳のレンツイが仕切り直して党首に選ばれてから組閣に成功しました。 首相に就任したレンツイは強力な多数派工作を開始して、
新中道右派NCDは閣内に取り込みました。
ナポリターノ大統領はやっと退官でき、新しいマッタレッラ新大統領を迎えました。
諸制度改革を一言で“リフォルマ”と呼ばれますが、レンツイ首相の強力な議会多数派工作は、ねじれ国会を乗り越え、尤も重要な諸制度の根幹になる労働法、学校教育法、選挙法、憲法、同性婚法を改定成立させました。
このねじれ国会審議では政党再編成、中央政府と地方政府あるいは行政府と司法部との対立や緊張を生み出しました。
共和国憲法大改正
“リフォルマ”の象徴が共和国憲法の大改正でした。
権限の分散をもっとも重視した改正前の共和国憲法の上院は直接選挙で315人の議員を選出し、下院と同等の権力を持っていました。
憲法改正後は国民の直接選挙は廃止され、上院の定員は100人で州議員75、市長21、大統領が指名する5人をもって構成されます。法案の審議や内閣の信任投票は下院のみが担います。終身議員制度は廃止、大統領選出基準の引き上げを含みエネルギーと運輸行政管理は州から中央政府に移管されます。 この改正によって70年間の2院同権制度は終わりました。
連立与党を率いる民主党は、10月に実施される国民投票に必要な署名集めと改正憲法批准<SI>キャンペーンを開始しました。レンツィ氏は国民投票で憲法改正案が否決されれば、首相を辞任すると表明しています。
一方、野党5星運動と右翼の北部同盟、ベルルスコーニ(FI)は、上院改革が野心的な首相をより強権的存在に作り変えるとし、上院改革によってレンツィ首相は独裁権力を持つ危険な存在になると批判しています。
しかし、彼等らは批判のための批判に過ぎません。上院改革は、全てのイタリア人が望んでいると言われてきました。 それは彼ら批判者も含めたイ タリア政界と国民の全ての願い、 と言えます。上述したようにレンツィ政府が果たしている成果を市民は評価しています。
今回の改革によってイタリアの将来は 確実に前向きに変わるでしょう。
中道右派のリーダが北部同盟LNに
中道右派の領袖であったベルルスコーニの<自由の人民98議席>は幾つにも分解して党は消滅し、現在、本隊は古巣(FI)に戻って41人の10%以下に落ち込みました。残りは国民エリア、偉大なる自治と自由(GAL)、自由国民同盟に分裂しました。変わって北部同盟LNが中道右派のリーダーに躍り上がり4%から13%に支持率を集めています。ベルルスコーニ時代は終わりました。
五つ星運動(M5S)は 54議席から19人減少し、その理由は追放されたのです。
この党派は市民運動から政界入りし、党自身で政策を持たない<第一次共和制度体制・既成政党や労組、既存する社会組織連等>に反対する批判政党ですが、追放された議員は既成政党と連立協力をしたためです。 今年5月の世論調査でも27%を維持して第2党です。最近は10人から成る指導部体制を敷きましたが党首のグリッロ氏は <もし、選挙で負けたら引退する>。と言っています。いずれにしてもM5Sが今後、どのような政策をもち、国の方向付けによってはイタリアの政治情勢は大きく左右されそうです。
失われた20年間を埋めるために
第1党のPD民主党は右から左まで6派から成る寄り合い世帯で支持率31/34%を維持しています。現在の主流はレンツイ派ですが、少数派は昔の共産党系とキリスト教民主党左派の長老とベテランです。レンツイ首相は党内少数派に対して10月の国民投票が終わるまで党内論争の休戦を呼びかけました。しかし、党内少数派は<上院議員について国民から直接選挙権の剥奪は民主主義の縮小だ!>と主張しています。
レンツイ首相は<これまでの一連の改革は喪失された20年間を埋める始めに過ぎない>としばしば言います。この20年間とは、一口で言えばベルルスコーニ時代でありその終焉です。
20年間の喪失を招いた要因は92–94年の「政治的大変動」に遡るのです。
それはベルリンの壁崩壊とソ連国家の消滅が引き起こした冷戦の終結が、イタリアの旧政治政権体制を崩壊させたのです。キリスト教民主党、共産党の大政党体制から少数多党制への移行でした。そのきっかけになったのは何と言ってもタンジェントポリと言われた構造的大汚職です。
当時、共産党を除く、社会党・クラクシ首相を頂点に上下両院議員、中央政府、地方政府のトップ指導者が連座して監獄に繋がれた大疑獄事件でした。この大疑獄事件は旧憲法を制定したすべての政党を消滅させ、又は党名を変えて再編してしまったのです。
つまり、第一次共和制度体制が崩壊したのです。
右派連立政権の憲法改正案を巡って
右派連立政権は2005年末、憲法改正案を野党・中道左派勢力の反対を押し切って議会を通過させました。改革案の中味は首相の権限を強化し、議会の解散権を大統領から首相に移し、保健や教育、警察などの権限を国から州 に委譲する内容であったのです。
2006年6月25-26日、憲法改革案を問う国民投票が行われ、開票の結果、60%を超す反対で否決されました。否決された最大の理由は左派や労組が、<市民間に貧富の差や社会サービスの享受に格差が生じるから>と、反対したのです。その結果、ベルルスコーニ時代は何もリフォルマされなかったのです。
マーフィアと汚職が北イタリアに感染
<要領よく立ち回る人(ずるい人)>をイタリア語で<フルボ>と呼びますが、近年このフルボが増えて居ます。フルボはマーフィアと汚職の温床です。一皮むけば犯罪と背中合わせです。
フルボの典型は公務員のサボタージュ、年金の不正受給、闇労働、課税逃れ、闇商取引等が挙げられますが、イタリア社会が<フルボ化>しています。この現象は世界経済危機の5年間にすべての社会制度に浸透しつつ有る、と言えます。その底辺には上に見たように市民の政治・行政に対する不信感が強く根深いからです。このため政治不信、行政不満を生み出した政治家の責任が強く問われています。
国会両院の反マーフィア委員会は捜査報告書で警告しています。
既に13以上の市政府がマーフィアに汚染されている(選挙投票売買)理由で市議会が解散させられました。特に、公共土木事業を巡る入札制度であり、警戒すべきミラノ・ロンバルデイア州:ボロニャ・エミリア州; ヴェネチア・ヴェネト州(高潮止め防波堤建設)への北部諸州がマーフィアに感染しまた。シチリア・マーフィアに変わってより凶暴なンドラゲット(本部カラブリア州)が進出してきました。それは当時のベルルスコーニ(2002年当時)政権が企業粉飾決算者・会社について刑事犯から解除外したからです。以後、公共事業への口聞き料を地方政治家に支払う様に成ってマーフィアと地方行政が癒着しました。
首都マーフィア
2014年12月2日、特カラビニイエーレ(特別のローマ憲兵警察)は元市長官房長と元ローマ県副警視総監を頂点に収賄、マーフィア型犯罪の疑いで数十名を逮捕しました。旧共産党系が設立した<協同組合6月29日>は約20年間以上もローマ市や内務省から請けおった各種の社会サービス(清掃から移民者の世話やき等広範囲)を作業員からピンハネ、市の行政管理者へ毎月最高5000€の上納金でした。 正にマーフィアと同じ手口で国内社会は騒然となりました。
バチカン市国の沈黙が融解に
ヴァチカンのドン・ジョッテイが活発な反マーフィア活動して居ます。しかし、ヴァチカン当局は今までこの10数年間沈黙し何もしませんでした。この沈黙は教会の大きな責任ですがフランチェスコ教皇が就任してから変化が出て来ました。国会両院の反マーフィア委員会委員長のロッシ・ビンデイはカトリック教会の信者ですが教会の不透明さを追及しています。それはヴァチカン銀行の不透明さ(金銭浄化操作)や高聖職者の個人的な蓄財の問題視され、現教皇は <聖職者は清貧で在れ>と叫んでいます。
6月の統一地方選挙
今後の政局動向、レンツイ政権の信任、そして10月の国民投票を占う統一地方選挙が来月6月に実施されます。トリノ、ミラノ、ボローニャ、ローマ、ナポリの大都市が含まれ、初めて注目の五つ星運動(M5S)がこの5都市に独自候補を立てています。 この5首長選挙でローマに初めて五つ星運動の市長が誕生する可能性が高いです。
首長選挙は一回目の投票で51%以上の得票を得ない場合、1位と2位間で決戦投票が行われます。その場合ほぼPD党と五つ星運動M5Sの戦いが予想されます。
2016年2月の政党政治勢力表
上院議会・政党名 + 終身議員6人込み 議席数
民主党(PD) 112(109)
国民エリア(Area Popolare)
(新中道右(派NCD)−中道連合(UDC) 31 (**)
自治のために−イタリア社会党−在外伊人連盟運動 20 (**)
イタリア保守改革派・無所属
市民の選択-イタリアのためモンティと共に
SCELTA CIVICA CON MONTI PER L'ITALIA 10 (19)
自由の人民
IL POPOLO DELLA LIBERTA' **(98)
自由の人民・フォルツア(FI) 41 (**)
五つ星運動(M5S) 35 (54)
北部同盟(LN) 12 (17)
偉大なる自治と自由(GAL) 15 (**)
自由国民同盟−自治 18 (**)
混合会派・無所属 20 (3)
左翼・エコロジー・自由 7 (7)
議席数 321 (307)
資料は日本外務省2016年2月 終身議員6人含む
( ) 内はウイクペデイア2013年イタリア総選挙結果 終身議員6人は除外

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