EU以降のイタリアの経済事情
EUは2012年のノーベル平和賞に選ばれた。
EUが第二次大戦後、60年以上にわたり、欧州の平和と和解、民主主義や人権の進展に貢献したことが評価された。
現在27カ国(域内人口は5億人)が加盟しているEUは周知のごとく創設以来最悪のユーロ債務危機に直面し、欧州分断が懸念されている。
欧州の公的債務危機の根源は、運用総額約2兆ドル(2011年10月末)のヘッジファンド等の国際金融資本だ。
根本的な解決策はこの国際投機団を国際社会が法的に規制し、閉め出す事だ。彼らはギリシャ危機を利用して空売りで大儲けし、さらに、「機能不全な欧州圏の債権は買うべきではない」と“南欧州売り”を浴びせた。
この“南欧州売り”をまともに受けたイタリア経済社会は3年に及ぶ深刻な 景気後退に置かれている。 イタリア経済に打撃を与えている金利スプレッド(ドイツ国債との差)だが、昨年11月9日には575に達した後、成立したモンテイ政権は血がにじむような市民の痛みを伴う一連の大幅な増税、大規模な歳出削減、大胆な構造改革を断行した結果、現在は320前後に縮小し、
市場は信用回復に向っているが、金利スプレッド指数が高いほど国債の金利が高くなり資金調達がドイツと比べて不利になる。
市民を窮乏生活へ追いやる一連の財政政策は消費税(IVA)が20から21%に引き上げられ各種の増税と物価上 昇に伴う1世帯当たりの年間負担増は4000ユーロを超えるだろうと言われる。
雇用されている30歳以下の賃金の手取り金額は男898、女750ユーロである。期限付きの派遣・臨時雇 いの労働者は400万人に達して労働市場全体の17%強を占める。
大学卒業生の給料は高卒とほぼ同じで若い頭脳が外国に流出し続けている。失業者は287万、青年層は36,5%に達し最悪状態を更新している。
経済の停滞は自殺者も増加させている。
GDPも今年は−2,5 に下方修正され景気の快復は来年秋以後となる。
労働界はイタリア労働総同盟を中心に雇用拡大と市民に重い徴税を裕福層に多く負担させる政策をモンテイ政府に要求してこの1年間に4回もゼネストを行なった。
ユーロ圏の中でドイツ、フランスに続く三番目の経済力を持っイタリアだが、ジャーナリズムは危機のユーロの未来を暗示する勝ち組「中核国」と負け組を指す「周辺国」という差別言葉を産んだ。
イタリアを「周辺国」と位置付け欧州諸国の恒久的な経済的、政治的不平等を正当化する表現だ。
一方、ドイツを代表とする「中核国」は富み、強力になる、と言う。
イタリアや地中海諸国企業 の金利はユーロの導入後、ドイツなど北部諸国より大幅に高い金利を支払わされて競争力を失う。
イタリア人はこうした金利差を産んだユーロ体制が正しいのかと、疑問を持つ。現在、世論調査によると、イタリア人 の44%がユーロ参加は間違いだったと意見表明した。
統一通貨ユーロの導入はイタリアの競争力を向上させず、
逆に、イタリアを恒久的に ドイツに隷属させることを意図しているのではないかと、懐疑的だ。
イタリアの税収は健全で、過去 15年間の大半の間、基礎的財政収支の黒字はドイツを上回っている。
健康保険基金や年金の債務も欧州で最低水準にあり、
雇用コストはフランスやドイツより ずっと低い。
貿易赤字はごく小さく、国民1人あたりの預金も、ドイツよりも多い。
1950年代初頭から、イタリアがユーロ参 加を決断した1999年までの間は、成長や国民1人あたりの富はドイツとほぼ同等であった。
EUが懐疑的だからと言って努力して築き上げたEU体制と統一通貨ユーロの後戻りはあり得ない。
2012年のノーベル平和賞受賞は正にEUが築き上げた平和の財産である。

0