「デフレ不況」の解消 からの続きです。
● 「失業と労働空洞化を招く製造拠点移転の抑制」政策
先にアップした
『【世界経済のゆくえ】中国は自滅の道を進むのか孤立に追い込まれるのか』を参照してもらいたいが、経済苦境のなかで加速させている製造拠点の海外移転は、移転を進めている企業そのものの首を絞めるものである。
外国で生産した労働財を日本以外に輸出するのならともかく、日本で販売して利益を上げたいと考えているのなら、とんでもない倒錯的行動である。
その企業が直接首切りをしていないとしても、関連企業が首切りをするだけでも、日本市場の購買力は落ちるのである。
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ある製品の小売価格構成が、製造人件費10%・メーカー利益30%・流通利益20%・原材料及び生産設備償却費40%だとすれば、外国で生産すれば、10%の製造人件費は外国の労働者に支払われることになる。
その製品をこれまで日本で生産し日本で10万個売ってきたとすれば、外国で生産するようになったことで、その製品が1万個売れなくなったとしてもおかしなことではない。
(現実には失業保険や公的生活扶助で少しカバーされるし、製品価格は外国製のほうが安くはなっているが...)
日本の大手企業は、最初に書いたように日本経済のすばらしさに自信を持つべきである。
日本で生産したものは、国民経済の論理から、日本で販売する限り、きちんと利益が得られる価格で販売できる。
わかっていることだとは思うが、家電・カメラ・自動車などの労働財で、日本企業全体のシェアを脅かす存在はほぼいないのである。
逆に、外国で生産したものを日本で販売すると、コストが安くなっても、思うような利益を上げられる価格で思うような量を売ることは難しくなる。
販売価格が安くなった以上に、かつて日本でそれを生産する活動に従事して得られていた給与が失われた金額のほうが多いからである。
そして、思うように売れなくなり、コスト低下で値下げ余地があるからと言って、価格を下げていけば、「デフレ不況」がさらに悪化し、利益を確保するためにさらに製造拠点を海外に移すという悪循環に陥る。
もう一つ言えば、「デフレ不況」が進んで国民経済総体の可処分所得が減少していけば、これまでは、同等機能でより高品質という購買行動を採っていた日本人が、同等機能であれば品質よりも価格が安いものをという購買行動に転じる可能性が高い。
これは、外国企業にシェアアップ機会を与えるものである。
(日本企業も、低コスト化に走って見えないところで品質を下げているが...)
外国で販売するものをその国で生産するのは理に叶っているが、日本企業が日本で販売するものを外国で生産するのは不合理な行動である。
いったん廃棄した生産設備を再確立するのは大変だし、多くの人がせっかく身につけた労働能力を発揮する場を失うのも無駄なことである。
企業が、日本で販売するものは基本的に日本で生産するという考えに立ち、失業者を復職を増加していけば、「デフレ」を解消する条件となる。
(かつてのように、日本の高い労働価値を何に向けるかという選択のなかで、日本はより付加価値(労働価値)の高い製品を選び、低付加価値製品は海外で生産するようにしたという時代とは異なる。日本でも、労働力が“余剰状態”になっているのである)
経済界は、現時点で法人税の在り方を論議するよりも、まずは、この問題を真剣に論議すべきである。
● 「緩やかな金利上昇」政策
昨日も、
『Re: FRBの研究者が本当に経済論理をわかっていないの? 』で書いたが、「量的金融緩和」はデフレ解消策にはなるが、低金利は、デフレ解消どころか、逆に、デフレ方向に向けさせる政策である。
「低中所得者の負担減と高額所得者の負担増」政策が優先的に実行されることが条件だが、公定歩合を0.25%刻みで半年ごとに緩やかに上昇させて2%程度にする。
その過程でも量的緩和政策を継続していけば、労働財に向けられる可処分所得の増大と相俟って、デフレ基調が解消され、ある段階になればインフレに転じる。
そして、実質金利がマイナスになるまで、量的緩和政策と緩やかな金利上昇政策を続ける。
この政策を実施するに当たって、クルーグマン教授が言っているように、「これでインフレになる」と首相や日銀総裁が“説明”を付加して声高に宣言するのもそれなりに効果があると思われる。
「低中所得者の負担減と高額所得者の負担増」政策を伴わないまま金利上昇政策を実施しても、物価上昇が販売不振だけを招き、企業収益を悪化させたり、物価を反落させてしまうだけである。
デフレである限り、実質金利がマイナスになることはない。
名目金利が0.5%でも、インフレ率がマイナス1.5%であれば、実質金利はプラス2%である。
名目金利が2%でも、インフレ率が3%であれば、実質金利はマイナス1%である。
これは、国債の利払い負担についても言えることである。
「デフレ不況」を解消する方法で、それなりのコンセンサスを得られる範囲の政策をいろいろ考えたが、貧弱な思考力ではこれら以外に思いつかない。
物価高の日本ではデフレも悪くないから「完全雇用」さえ実現できればという考え方もあるが、“財政危機”の問題があるから無理である。
基底的な政策を実施しないままの国債発行による財政支出拡大は、プラス成長を維持するために、さらなる財政支出拡大が必要になるだけである。
(30兆円のできる多くを、非労働成果財ではなく労働成果財の購入に向けて欲しい)
もっと“過激”な政策もあるが、現状では多数に受け入れないと考えている。
「銀行救済策」として、返済は予定されているがこれまで10兆円の税金を投入し、30兆円もの新規国債を発行し続けて財政支出で需要を支えている。
現在の状況がこのまま進めば、「不良債権」はさらに増大し、銀行への追加公的資金投入は避けられない。
金利上昇で生じる国債の評価損は17兆円に及ぶと推定されるが、このまま年月が経過すれば、保有国債の平均年利(現在は2.5%ほど)はさらに下降し、1.5%に近づいていく。対策が遅れれば、“金融システム”を維持するために、否応なく20兆円規模の公的資金投入が必要になる。
さらに重要な問題は、海外への「製造拠点移転」が進めば、日本が産出する労働価値の総額が減少するのみならず、日本の貿易収支が3年ほどで赤字に転じる予測があることである。
諸外国の経済状況も、悪化の方向に向かっている。
今年中に政策を立案し来年度からの実施することでもいいから、「デフレ不況」解消策をまともに行わなければ、日本が誇る有利な条件を失い、再生するチャンスも失ってしまうかもしれない。
声を大きくして言いたいのは、「日本はこれまで築いてきた経済条件を活かせば、デフレ不況を解消できる」ということである。
わずか3つの政策を実施すれば、その道が拓かれるのである。
そして、この3つの政策を求める声が高まれば、政策として実施されるようになる。
誤りもあれば不十分な説明もあると思っているので、指摘していただければ幸いです。
7/8/31
政府が政策変更しない限り、個別企業は“破滅”への道を突き進むしかない!に続きます。

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