「年金問題」の本質から続きます。
奥田会長時代に日本経団連は、人口減少=“少子高齢化”対策として、労働力移民の受け入れを提唱している。
日本経済が完全雇用状況ならそのような政策も考慮に値するが、完全失業者が320万人で就業断念者も増加している経済状況でそのような政策を本気で要求しているのなら、思考力が破綻していると断言する。
お金をたっぷり持っている移民のみで人口が増えるのであれば、居座り続ける外国人観光客が増えたという話になるからGDPの需要増加に貢献するが、日本で就業しなければ生活もままならないという人たちの移住で人口が増えるのなら、就業機会を与えない限り、政府が社会保障を通じて面倒を見なければならない。
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移民として受け入れていながら国家が面倒をみないという醜態を見せれば、日本は、再び不埒で無責任な国家という烙印を押されることになる。
移民を受け入れるということは、日本国民と同じ保障を付与する責務を負うということである。
経済状況がおかしくなったときは、国民みなが身を削って移民の生活を支えるという覚悟がない限り、労働力としての移民を受け入れるべきではない。
(日本で移民排斥運動というおぞましいものを見たくない)
現在の日本で問題なのは、労働力の不足ではなく、「デフレ不況」という販売価格の下落圧力を受け、下落した販売価格でも利益が得られるようコスト削減目的で製造拠点を海外に移転し、そこから日本に輸出していることである。
供給活動に従事する人が減少すれば所得減から需要が減少するという経済の基本さえ理解できずに、コストを削減すれば利益が増えると皮相な考え方をしていることが、「デフレ不況」を悪化させているのである。
大手企業経営者の組織である日本経団連は、移民の受け入れを提唱するのではなく、この問題こそをまず解決しなければならない。
日本人が就業したくないと考えている職種があるとしても、320万人の完全失業者がいて、若年層の失業率が9.2%にもなっている日本が、政治(人道)的配慮ではなく、経済的思惑で移民を受け入れるというのは倒錯である。
3Kなどと言われ就業したくないと思われている職種は、外国人に依存するのではなく、必要な数がそれに就業したくなる水準まで給与を引き上げることで解決すべきである。
移民の受け入れは、日本経済が完全雇用状況(失業率2%以下)に回復してから考えても十分間に合うテーマである。
人口が減少に比例して供給力=需要が減少したとしても、資本増殖を至上命題としている企業以外はなんら問題ない。
企業も、中国など発展途上国は数多くあるのだから、そこに進出して経済成長に貢献すれば、売上や利益が減少するという問題は解決できる。
移民を受け入れてまで日本で供給力を維持することを考えるより、世界の需要地でひとを雇用し、その人たちが得た所得の連関的循環が生産した財の需要につながる方策を採ったほうがずっと合理的である。
供給活動に従事しない家計は消費者になれないのだから、日本のGDPだけを拡大しても、輸出を増加させることはできない。
それこそ、日本で生産した財を輸入してもらうために経済支援をしなければならないという惨状になるだけである。
日本は、“やや供給力過剰”という経済活動力を保てば十分やっていけるのである。
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★ 関連投稿
『
「産業資本主義」の終焉:戦後日本の「農業(漁業)→産業→商業・サービス業→金融業」発展形態:「労働の交換」を理解するため』
『「
産業資本主義」の終焉:GDPの名目成長率と実質成長率:インフレ(デフレ)と生産性上昇を理解するために』
参考:関連構想
1999.8.13「第9次雇用対策基本計画」(閣議決定)単に少子高齢化に伴う労働力不足への対応として受け入れを考えることは適当でなく、まず高齢者、女性の活用を図ることが重要と規定
1999.11.17「アジア経済再生ミッション報告書」(小渕総理の意向を受け奥田日経連会長を団長にアジア各国を訪問)急速な高齢化による介護要員の不足への危機感を背景に、介護・看護分野での受け入れを提言
2000.1.18「21世紀日本の構想懇談会報告書」(小渕総理の下に発足した有識者による懇談会)外国人が日本に住み、働いてみたいと思うような移民政策を策定し、社会の発展への寄与を期待できる外国人の移住・永住を促すことを提言
2000.3.20国 際 連 合「 補 充 移 民(Replacement Migration: Is It a Solution to Declining and Ageing Populations ?)」日本が2050年に現在の生産年齢人口(15〜64歳)を維持するためには、毎年64万7000人の移民が必要と推計2000.3.24法務省「第2次出入国管理基本計画」本格的な人口減少時代の到来の前に、そうした時代のあるべき姿を展望した上での対応のあり方を検討・準備しておく必要があると規定
2001.10.19外国人集住都市会議「浜松宣言及び提言」 外国人住民が多数居住している浜松市等の13の都市が、外国人の社会保障、子どもの教育、外国人登録等の諸手続きについて提言
2002.7.5厚生労働省「外国人雇用問題研究会報告書」長期的な幅広い観点からの国民的議論に寄与し、議論に必要な材料を提供することを狙いとして、有識者による研究会が論点を整理・検討
2002.10.23経済同友会「外国人が『訪れたい、学びたい、働きたい』日本となるために」高度な技術や技能をもった人材を魅きつけるために、留学と就職を橋渡しする在留資格の創設や、国際インターンシップの活用等を提言
2003.7.1経済産業省「平成15年版 通商白書」今後の人口構成から見て、長期的には受け入れを考えていく必要があるとしつつ、単純労働者については十分慎重な対応が不可欠と結論
2003.9.17日本商工会議所「少子高齢化 、 経済グローバル化時代における外国人労働者の受け入れのあり方について」若者、高齢者、女性の就業促進と平行して、単純労働者の受け入れ促進策について真剣に検討すべきと提言
2004.4.14日本経済団体連合会(日本経団連)「外国人受け入れ問題に関する提言」人口減少の埋め合わせではなく、多様性のダイナミズムを活かし、国民の付加価値創造力を高めていくための総合的な受け入れ施策を提言
2004.7.20厚生労働省「外国人労働者の雇用管理のあり方に関する研究会報告書」単純労働者の増加や就労の長期化、定住化に伴い、就労や生活をめぐる問題が生じてきているため、外国人の適正な雇用管理のあり方を検討
2004.8.20日本労働組合総連合会(連合)「FTA/EPAに対する連合の当面の対応」いわゆる単純労働者については、国内の雇用や労働条件等に悪影響を及ぼす可能性があることから、今後も安易な受け入れに反対する方針
2004.10.5海外交流審議会(外相の諮問機関)「変化する世界における領事改革と外国人問題への新たな取組み」いわゆる単純労働者の受け入れをどうするかについて十分な議論を行い、国民的合意の形成を図るべきと提言
2004.12.21第4次出入国管理政策懇談会(法相の諮問機関)「人口減少時代における出入国管理行政の当面の課題」人口減少時代における経済活力と国民生活の維持のため、円滑化と厳格化の両立の観点から、受け入れのあり方を検討すべきと提言
少子高齢化と外国人労働者 井 田 敦 彦氏より
8/2/2

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