以前のエントリー
狂牛病飼料規制強化は実行不能
で
米国のような牛肉大生産・消費国では、科学者が推奨するような狂牛病拡散防止策は、そもそも実行不可能なのではないか。巨大な数の牛から生み出される”廃棄物”(死亡牛、ダウナーカウ、SRM等)を安全に処分する方法などあるのだろうか。
との懸念があったが、案の定、死亡牛の脳・脊髄の飼料利用禁止案を撤回することになりそうである。
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農業情報研究所(WAPIC)06.9.13記事です。
米FDA 死亡牛の脳・脊髄の飼料利用禁止案を撤回へ 経済コストが高すぎる
米国食品医薬局(FDA)が昨年10月に提案し、未だに実現していないBSE飼料規制案(米国FDA 新たなBSE飼料規制を発表 なお抜け穴だらけ カナダの規制とも格差,05.10.5)*1 をさらに後退させることになりそうだ。サンドロフFDA獣医薬センター長が11日、ダウ・ジョーンズとの会見で、FDAはこの飼料規制強化が産業にもたらす経済的コストを過少評価したかも知れないと語ったという。特に家畜飼料に加工するすべての死亡牛から脳と脊髄を除去することをレンダリング業者に強制する提案は、今や撤回されつつあるという。
US Feed Ban May Be Too Costly To Industry,Cattle Network,9.12
彼は、新たなルールを考案したときにはレンダリング産業は大した打撃は受けないと仮定したが、これはどうも間違っていたらしい、FDAは以前の仮定と飼料産業に大量の蛋白質を提供する産業の代表者からの新たなデータを検討中である、最終ルールの発表は今年遅くか、それよりも遅れる可能性もあると言う。
彼によると、FDAはこの提案に対する850のコメントを受け取ったが、多くのコメントは、我々がこの提案に関連した経済的影響を相当に過小評価しているというものだった。これらのコメントを受け、FDAは提案の経済的影響の見直しを続けるという。
米国のように経済効率を最優先し、かつ大量の牛肉を生産・消費する国では、「科学者が推奨するような狂牛病拡散防止策は、そもそも実行不可能なのではないかと見えてくる」、「すべては、余りに肥大した牛肉生産・消費がもたらした帰結だ。”科学”だけに頼る狂牛病対策は無力だ。今最も必要なことは”牛肉大量消費文明”そのものの見直しだ」と述べた(米国レンダリング協会 狂牛病飼料規制強化は経済・環境影響が大きすぎて実行不能,06.8.10)、それが現実のものになりつつある。
安価で大量の牛肉を供給する牛肉生産システムは狂牛病の根源であり、それがなくならなかぎり狂牛病は根絶はできない。そして、狂牛病があるかぎり、人の感染を確実に防ぐ手段はない。検査と特定危険部位除去でリスクは軽減するかもしれないが、リスクはなくならない。治療法がなく、確実に死に至るこの病気に関しては、このようなリスク論に振り回されてはならない。まして潜在患者を通じて、輸血や手術で人から人への伝播が起きることが分かった現在、vCJD感染者は一人たりとも出してはならない。
とすれば、今何をするべきかは明らかだ。消費者は安価で大量の牛肉を追い求めることをやめることで、このようなシステム自体を追放せねばならない。そうしないかぎり、狂牛病とvCJDの脅威から解放されることは永遠にないだろう。
*1:
米国FDA 新たなBSE飼料規制を発表 なお抜け穴だらけ カナダの規制とも格差
農業情報研究所(WAPIC)
05.10.5
米国食品医薬局(FDA)が4日、昨年1月以来予告してきた新たなBSE関連飼料規制措置を発表した。ペットフードも含むすべての動物飼料への一定の高リスク物質の利用を禁止するという。しかし、なお抜け穴だらけだ。
FDA News:FDA Proposes Additional ''Mad Cow'' Safeguards(05.10.4)
http://www.fda.gov/bbs/topics/news/2005/new01240.html
禁止対象物質は次のとおり。
・30ヵ月以上の牛の脳と脊髄、
・検分で人間消費が許されなかったすべての月齢の牛の脳と脊髄、
・脳と脊髄が除去されなかった場合、検分で人間消費が許されなかった牛のと体全体、
・牛脂[タロー]が0.15%の非溶解性不純物を含む場合、この提案されたルールで禁止された物質に由来するタロー、
・この提案されたルールで禁止された物質に由来する機械的分離肉。
現行の1997年飼料規制は、これら物質の反芻動物(牛と羊)飼料への使用は禁じたが、非反芻動物飼料への利用は禁止していなかった。新措置は、飼料製造、輸送の間に反芻動物飼料・飼料と非反芻動物飼料・飼料成分の交差汚染や農場における非反芻動物飼料の反芻動物への意図的または偶然の給与からくる牛の感染リスクを減らすためのものという。
この決定は、すべての動物飼料に特定危険部位(SRM)を利用することを禁止し、また反芻動物飼料にすべての哺乳動物・家禽蛋白質の利用を禁止する昨年7月の提案(米国FDA、BSE感染防止ルール強化を発表、なお抜け穴、実施も何時のことか,04.7.10)へのコメント、1997年規制の血液・血液製品、残飯の利用の許容の取り消し、反芻動物飼料への養鶏場廃棄物(ポールトリーリッター、チキンリッター)の利用禁止、交差汚染防止のための設備や施設の専用化義務を告げた昨年1月の提案(米国食品医薬局(FDA)、新BSE対策を発表―飼料規制強化,04.1.27)へのコメントを考慮したものという。
決定された措置は、これらの以前の提案から大きく後退したものだ。一部SRM(眼・扁桃・回腸遠位部など)は禁止対象とならず、血液・血液製品、残飯、チキンリッターの利用は相変わらず許され、設備・施設の専用化も義務化されない。交差汚染の可能性は大きく残る。安全よりも経済的利害を優先したとしか考えられない。
新措置はカナダが予定している新措置に比べても劣る。カナダは、ペットフードを含むすべての動物飼料と肥料へのSRM(30ヵ月齢以上の牛の頭蓋・脳・三叉神経節・眼・扁桃・脊髄・脊髄神経節(背根神経節)とすべての月齢の牛の回腸遠位部)、SRMを含む死亡牛や人間の消費を否認された牛、死亡及び人間の消費を否認されたその他の反芻動物の使用を禁止する。レンダリング工程はSRM以外の反芻動物成分の感染性を90%減らすように設計されねばならず、施設内の生産ラインと設備は専用化されねばならない。なお不十分とはいえ、米国との大きな格差が生まれるだろう。
しかし、日本政府は食品安全委のお墨付きを得て、そんなこととはまったく無関係に両国産牛肉・内臓の輸入再開を決めるのだろう(プリオン専門調査会 米加産牛肉のBSE汚染度は非常に低い 誰も信用しない”科学”に退場を願う,05.10.5)。これを紹介するのも時間の無駄に思えてきた。

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