郷原信郎氏のツイートから。
昨日の大阪地裁の検察官証拠請求却下決定は、裁判所が、江副浩正氏、佐藤栄佐久氏、細野祐二氏などが著書で訴えてきた特捜検察の取調べの問題に正面から向き合った画期的なものだったと思います。
その大きな原動力となったのは、この裁判が社会的注目を集めたことです
これまで、特捜事件は捜査ばかり注目を集め、公判は社会的関心の対象外でしたが、今回の事件では、江川さんやナミねえさん達の活動で公判が社会的注目を集めたこと大きかったと思います。
それに、何といっても、事実に反する自白を拒否して闘い続けた村木さんの強い意志です。
先ほど江川さんがテレ朝の「やじうま」で言われていたように、この機会に、特捜検察の検察独自捜査の取調べを全面可視化することが必要です。
人気blogランキング <-- クリックしていただくと、より多くの方に読んでいただけます。応援よろしくお願いします。
私も、「検察が危ない」の最終章でこのことを強く主張しています。
この機会に、議論を一気に盛り上げていきたいものです。
問題の根本に、郵政不正事件の本質についての検察が誤解があると思います。
上村公判供述では、多数の仕事に忙殺される中で「軽い気持」で嘘の証明書を作成ってしまったとのことですが、検察は、それを政治家の口利きでもないとやってもらえないような重大なことと考えたわけです
昨年4月の日経BOLの論考
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090424/193032/ 郵政民営化でDM事業等を市場メカニズムに対応させなければならないのに、郵便法による制度がついていってなかった
そこで、一つの便法として使われたのが、障害者向け低料第三種郵便だった。
それは、年賀状の時期以外はほとんど施設も人員も余っている郵便事業会社側にも、それなりのメリットがあった。
だからこそ、ろくにチェックもしないで不正を見過ごしていたのだと思います。
そう考えると、膨大な仕事の中でたいしたことと考えないで虚偽の証明書を作成したという上村供述にも合理性があります。
正規料金(こっちが実態とかい離)と比較して数億円もの不正利益を得た悪質犯罪に政治家が絡んだというストーリーにもともと無理があったと思います。
> 完全に初歩的なミス?
「初歩的」というより、私が「検察が危ない」等の著書で述べているように、現在の特捜検察には経済社会の実態が理解できておらず、実態と違うストーリーを設定し、無理な取調べで結果を出そうとした。
そこに「悪意」はあまりないのではないかと思います
> 「じゃあ、しょうがない」とはならないですよね…
もちろん「しょうがない」ということではありません。
私が考えているような問題だとすると、今回の事件を担当した個人の問題というより、特捜検察の構造的な問題であり、その在り方を根本的に見直す必要があるということです。
> 衆議院選挙直前でかつ民主党の石井議員に強引に結びつけて事件化しようとした検察の思惑
特捜部の現場が最初からそういう思惑で捜査をしようとしたとは考えにくいのです。
検察の上層部の方から、そういう方向に捜査を持っていくことを期待された可能性もあると思います。
今回の裁判所の決定で指摘された特捜検察の取調べの問題は、決して大阪地検特捜部だけの問題ではありません。
今回の事件の捜査の中心になっていた検事は、西松事件で東京特捜部に応援に行っていたという話もあります。
「検察が危ない」でも詳しく書いた取調べの問題は、特捜検察に共通するものです。
今回の裁判所の決定は、特捜検察の捜査に対する裁判所の見方の大きな変化を象徴するものです。
裁判所がそれを率直に判断することができる環境ができたのは、竹中さん、江川さんなど村木さんを支援する多くの人達の努力の成果だと思います。
> 西松の公判への影響はあると思われますか?
今回の決定の影響も大きいと思いますが、西松事件の大久保氏の事件は、私がかねてから指摘しているように、もともと事件自体がデタラメで、まともな判決が得られるようなものではないと思います。
> 原因を解明して、対策とともにこれを明らかにするということは無理なことなのでしょうか
まさに今回の問題を機に根本的な検察のコンプライアンスの立て直しを行うことが必要です。
特捜検察の構造を含めた抜本的改革を検察が自主的に行うことはかなり難しいことは確かです。
起訴権限は基本的検察が独占しています。
唯一の例外が検察審査会の起訴相当議決による強制起訴です。
検察が、その組織に属する検事を偽証で起訴することは考えられません。
あるとすれば、告発⇒検審⇒起訴相当(2回)⇒強制起訴というケースだけでしょう。
> 特捜幹部の方々には「何とかしなければ」と言うような内部改革の雰囲気へとはつながらないものなのでしょうか。
そうあってほしいものです。
参考:
2010.5.26
コンプライアンス研究センター緊急記者レク概要
http://www.comp-c.co.jp/pdf/100526reku.pdf
名城大学コンプライアンス研究センター長 郷原信郎
今日の午後、大阪地裁で郵便不正事件の村木厚子元厚生労働省の局長に対する公判で、大阪地裁が検察官の証拠請求に対して証拠の採否の判断を行い43通の検察官調書の請求が行われていたところ、そのうち9通だけ採用を認めて、それ以外34通、検察官の証拠請求を却下したようです。まず、この決定の理由、決定の内容ですが、まだ新聞とかインターネットのニュースでは詳しく報じられていませんが、先ほど、公判を傍聴していた江川紹子さんと電話で話ができたので、ある程度詳しく内容を聞くことができました。だいたいこういうような内容だったようです。
まず、検察官調書の特信性について、全体的な指摘を行っていて、その中で検察官の取り調べの手法にかなり言及しているようです。まず1つは、取り調べ検察官は、検察官の意に沿う供述をするまで調書を取らない。そういうやり方を取っていた。誘導して、自分たちの考えているような方向の内容の調書でないと、作成して署名させないということだと思います。それから、主任検事が調書の内容をチェックして了承するまで調書を作成しない。要するに、調書の内容は主任検事の管理下に置かれているということだと思います。
最も重要なのは、検察官立証の柱となるべき実行行為者の上村元係長の供述調書の証拠請がすべては却下されたということです。そして、この上村供述については被疑者ノートの内容を相当重視しているようです。「冤罪はこうして作られていくのか」というような被疑者ノートの内容についてはすでに報じられたところです私も最近出した新書『検察が危ない』の中でも書いていますが、裁判所はその被疑者ノートの内容を重視しているようです。この内容は後から書き加えられたものとは認められないということを判示しているようです。
そして、一つ一つの調書について、相反部分を詳細に適示して、外形面、内容面を比較して、特信性が認められるかどうかを詳細に分析しているということのようです。
9通採用された調書には村木被告の本件への関与を直接裏付ける調書はない。ということは、今まで採用された証拠では検察官は到底村木被告の共謀、関与は不可能ということだと思います。採用された調書は、厚労省関係の在宅で取り調べを受けた厚労省関係者の調書と、それから河野調書です。この前、有罪に判決を受けた凛の会の関係者。これらの供述調書が採用されたようですが、この河野調書については、特信性は認めると言っている一方で信用性は否定しているようです。この調書はで上村氏は、河野氏にうその証明書を渡したと言っているが、河野氏はそれを受け取っていないと言っている。そこが相反していたわけです。その部分についても裁判所は上村氏が言っていることが本当だという認定をしているようです。
この決定は事実上、無罪を先取りして判断したに等しい内容だと思います。それだけではなくて、今回の決定には、特捜検察の捜査に対する裁判所の判断として非常に大きな意味があると思います。今までも特捜の調書の信用性に関して、いろいろ疑問を指摘するような判示をした判決が一部にはありますが、これだけ正面から検察官調書の証拠能力の問題に関して、特信性を否定する判断というのはなかったのではないか。もうほとんど、罪体に関する調書のほとんど証拠請求を却下する。こういった判断を裁判所が示したことはなかったのではないかと思います。ある意味では、これは、裁判所の特捜検察に捜査に対する見方の大きな変化を表しているのではないかという気がします。
ついこの間、東京地検特捜部が起訴したPCIの特別背任事件で、1審無罪に続いて、2審で無罪が出て、無罪で確定することは間違いないと思います。この無罪判決も新聞ではほとんど取り上げられていませんが、特捜検察の事件に対する裁判としてまでにない展開だと思っていたところです。今までは1審で無罪判決が出ても、ことごとく高裁でひっくり返されていた。ところが、PCIの事件では、控訴審は1回結審です。検察官の証拠請求をほとんど認めなかった。それだけ、検察官の特別背任という事件のそもそもの見方自体がおかしいということに関して、1審と2審がほとんど同じ考え方を取ったということです。
このところ、特捜部の捜査のあり方がいろいろ問題になっていたこともあって、今回の大阪地裁の郵便不正事件については、これまでの特捜事件と比較すると、公判が注目されました。ここにはいろいろな人たちの努力があると思います。一般の新聞テレビではあまり公判の経過が報じられない中で、ネットでは、さっき言った江川さんとか、竹中さんなど村木さんの支援者の人たちが詳細に公判の経過をネットを使って報じて、それが社会的にも相当注目を集めてきた。そういうふうにしてみんながきちんと公判の経過に注目し、特捜の捜査がどうだったのか、まともな捜査だったのかということをみんながしっかり見ていけば、考えていけば、裁判所もその点の事実に向き合わざるを得ないということだと思います。
今まではそうじゃなかったわけです。裁判係属中に被告人の立場で本を出している人はたくさんいます。例えば、細野祐二氏の『公認会計士vs特捜検察』とか、佐藤栄佐久氏の「知事抹殺」とか、もう裁判は確定していますが、江副浩正氏の『リクルート事件・江副浩正の真実』とか、こういった本の中で被告人や元被告人が訴えてきた特捜検察の取り調べの状況については、彼らの裁判の中でも同じような主張がさんざん行われたと思います。特捜部が作り上げたストーリー通りの供述調書に署名するように執拗に迫られ、そうすれば早く事件が決着する、身柄も解放されるという利益誘導、応じなければ、身柄拘束が続き、家族、知人、会社、支持者までが徹底的に痛めつけられる、そういう取調べの中で、一度事実と違う調書に署名してしまうこと、それが決定的な証拠になるというのが、これまでの特捜事件の裁判でした。裁判所は、これまでは、そういった被告側の主張にはきちんと向き合ってこなかった。それは、社会的にも公判がほとんど注目されず、そうい
う被告側の主張も社会的に注目を集めなかったということもあると思います。それが今回の事件の村木さんの公判では非常に大きな注目を集めたというところが、これまでとは大きく違う展開になった大きな理由の一つではないかという感じがします。
この事件をどう見るのかということに関して、1年以上前に「日経ビジネスオンライン」に郵便不正事件について書いた記事をお配りしました。そこに、郵便不正事件についての私の見方を書いていますこの事件というのは、わずか30万円の以下の罰金という、普通だとわざわざ検察が独自捜査で乗り出して行って身柄まで捕まえるような事件ではないと思える事件をあえて大阪地検が「凜の会」の関係者や福岡のベスト電器の関係者とか、いろいろな関係者多数の身柄を取って、強制捜査に着手したという事件でした。なぜ郵便料金を不正に免れるという行為に対する罰則が30万円以下の罰金、と詐欺罪と比べて著しく軽いのか。そこには理由があります。
郵便法が想定している郵便料金を不正に免れるというのは、ポストに入れて配達してもらうということです。実際より少ない金額の切手しか貼らないで配達させるという行為です。その場合、具体的に誰がそれで騙されて、誰が配達というサービスをさせられたかというのは特定するのは困難です。ですから詐欺罪にはならない。しかも、切手代だから僅かな金額です。ということもあって、郵便に関しての不正に料金を免れるという行為は、特別に軽い罰則の対象にしていた、ということだと思います。
今回の事件のように、障害者向け割引の要件を充たさないのに、それを充たすように装って大量のダイレクトメールの発送を委託するというような行為は想定していなかったと思います。郵便ポストに投函するという形態ではないので、本来は郵便法違反ではなくて詐欺罪を適用すべきです。それが郵便法で摘発することになったのは、ダイレクトメールを受け付ける郵便事業会社側も、その事情を知っていて騙されていないからではないかと思います。
では、なぜ郵便事業会社側もそういう不正なダイレクトメールを受け付けたのかというと、おそらく、」郵政民営化によって郵便事業が一部自由化されて競争原理が導入されるようになった。それで、郵便事業会社でも、ダイレクトメールの受託などでは、従来からの民間業者との競争にさらされることになった。そこで、ある程度、まとまった量のダイレクトメールであれば安くするということをやっていかなければなかなか競争に勝てないわけですが、郵便法というのが、古色蒼然たる非常に古くさい法律のままで、郵便料金が基本的に法律で定められているので、ボリュームに応じた自由な、弾力的な価格設定ができない。そこで極端に価格が安い障害者向けの低料第三種郵便みたいなものが使われた、というのが恐らく実態だったろうと思います。
もちろん、いくらディスカウントすると言っても、1通8円というはいくらなんでも、マーケット価格にしても安すぎることは間違いないと思います。しかし、郵便事業会社の郵便事業の実態としては、年賀状で1年分の収益のほとんどを稼いでしまって、ほかの時期は、人も施設も遊んでいるというのが実情です。遊ばせておくぐらいだったら安くても引き受けた方がいいという判断もあった可能性があります。結局、郵政民営化を進めようとしているのに、郵便法の規定がそのまま残っているために競争原理がなかなかうまく機能しない。それが、今回のような不正が行われ、郵便事業会社側も、それを見過ごすことにつながったというところが今回の郵政不正事件の背景だと思います。この問題は罰金30万円以下の事件だけども、そういう郵政民営化の歪みという実情を明らかにするという意味では、決して意味がないとは言えない。それは社会的な意味のある摘発と評価してあげもていいんじゃないかということを、この日経ビジネスオンラインの論考の最後に書いているわけです。
言外に私が言いたかったのは、罰金30万円以下の事件で無理に無理を重ねて強制捜査に持ち込んでいる面もあるので、さすがに身柄を長い間拘束しておくとか、だらだら長く捜査をするということはやめておいた方がいいよ、ということだったのです。郵便事業会社側が見過ごしていたということからしても、とんでもない悪辣な犯罪というわけではないし、無理をする事件ではない。ここのところでスパッとやめておけば、郵政民営化の歪みを指摘したということでそれなりに評価できる、ということが言いたかったわけです。当時、東京地検は政治資金規正法の刀の使い方を誤って無茶苦茶な捜査をやって大恥をかこうとしていたわけで、それと比べたら、罰則は軽くても、それを本当に最大限に使って郵政民営化の歪みを明らかにする事件を摘発した大阪地検は、それなりに評価してもいい。だからそこまでで早くやめておきなさい、ということが言いたかったわけです。ところが、最初からそういう意図だったのかわかりませんが、それでやめておかなかったわけです。
その後、捜査が厚労省に波及、民主党の大物政治家の名前まで出てきて、まったく違った展開になっていきました。
そして厚生労働省でウソの証明書が作られた、それが村木局長の指示だとか、そこに民主党の大物議員が口利きをしたというような話になっていったわけです。しかし、もともと私がこの論考に書いたような事件だとすれば、証明書をもらうというところでも、そんなに大掛かりなことをして政治家にまで頼んでやってもらうというような話なのかどうかということです。市場原理からすると、それなりの合理性がある形でDM発送の委託が行われた。ただ、それが郵便法で定めている第三種郵便の料金と比べたら大幅に安かったということに過ぎなかったのであれば、郵便事業会社側もあまり問題意識なく受け入れてしまった。厚労省の係長も、大したことではないと思って「軽い気持ち」で証明書を発行するということも十分にあり得ることです。
本来受け取るべき料金を大幅に安くしてもらって、巨額の利得を得る。それだけの大変な悪事なのだから、よっぽどの頼み方をしないと厚労省の担当者もやってくれない、だから、政治家を使って圧力をかけてもらって、上司から指示させるというような手段を使った、という見方をしたのでしょうが、もともと、そんな大げさな話ではないし、この事件はそのように大変な犯罪ではなかったのではないか。そういう検察の見方自体がもともと実態を正しく見ていなかった。そういう見方の違いが、端的に表れてしまったのではないか。
結局、先ほどお話しした、上村元係長の法廷証言が、恐らく今回、裁判所の認定の柱になると思いますが、そこで、今回の証明書の偽造についてどういう言い方をしているかというと、忙しくて、いろいろな仕事を抱えていたので、本当に軽い気持ちでやってしまったと。そんなたいしたことじゃないと思ってやってしまった、と言っているようですが。
それを裁判所が信用できると認定したということは、やっぱり、今回のうその証明書作成というのは、その程度のものでしかなかったのではないか。それは、ある意味で、今お話したような私のこの事件の見方と符合しています。この「日経ビジネスオンライン」に書いていることからすると、上村氏の証言は私にとってうなずける感じがします。そういう事件の実態を誤って、誤ったストーリーを描いて、そのストーリー通りに捜査を進めようとした、そういうストーリー通りの調書を取らないと、とにかく収まらないというような取り調べの仕方を続けていった、従来の特捜的なやり方を続けていったところに、今回、こういう裁判所の証拠請求却下決定を受けて無罪確実となった決定的な原因があるのではないかという気がします。
大阪の事件が、ほぼ1審での検察の敗北は確定的な状況になったわけですが、一方で東京の特捜部の事件は、まだ大久保公判、石川公判、これから行われることになります。
大久保公判は、この間も言ったように、訴因変更請求が認められるかどうかというところがまさにぎりぎりのところで、一応裁判所は認めたようですが、これも検察にとっては大変厳しい公判が今後予想されます。石川公判も、「検察が危ない」でも書いている私のこの事件に対する見方からすると、検察にとって厳しい状況になるのではないかと思います。
とにかく、特捜検察のこれまでの捜査のやり方、取り調べのやり方をこの際、全面的に見直す必要があるのではないかと思います。『検察が危ない』の最後にも書いたことですが、今問題になっている取り調べの可視化の問題については、全面可視化をただちに行うべきかについては、まだまだいろいろ議論すべき点はあると思います。しかし、少なくとも、検察官独自捜査については、取り調べを全面可視化することを否定する理由はまったくないと思います。その弊害――取り調べでいかなる手段であれば調書さえ取ってしまったら、すべて検察の思うがままになってしまうという危険性を考えたときに、虚偽自白が行われやすいという経済事犯の特質、特殊事犯の特質などを考えたときに、少なくとも、検察官独自捜査の取り調べは、ただちに全面可視化すべきです。今回の大阪地裁の判断は、そういう面でも、大きな意味を持つのではないかと思います。

62