【1.北朝鮮の核実験と日本の大騒ぎ】
北朝鮮は、10月9日、地下核実験をした。これにより日本では、連日、日本が核攻撃されると大騒ぎした。この議論は見当違いもはなはだしい。
まず、この「核兵器」は日本を対象にしたものではない。北朝鮮の目的は「核兵器」という残酷な兵器を保有する国として国際社会に認知させることである。日本が騒げは騒ぐほど、北朝鮮の思惑どうりになる。
もしも、北朝鮮が日本を攻撃するのであれば、核兵器など使用する必要はない。中川昭一自民党政調会長が佐賀県での講演(11月3日)で述べたように、日本の原発のどれかをミサイル攻撃すればよいのである。
運転中の原発の場合、原子炉の入っている格納容器を直接破壊しなくても、付属する建屋の最上階にある制御室を破壊するか、または制御室の床下にある冷却水配管を破断すれば、原子炉の冷却が不可能となって、原子炉は炉心熔融事故を起こし、内蔵する放射能が全量放出されることになる。
原発に内蔵する放射能の量は原爆とは桁違いに多いから、風で運ばれて日本中放射能だらけになる。その原発が、日本海側に30数基もならんでいるのである。
原発攻撃についてのこの中川発言は衝撃的であった。しかし、日本のマスコミは、夕方のテレビではこの「原発攻撃発言」を取り上げたが、夜のテレビと翌朝の新聞(佐賀新聞を含む)では、朝日を除いてこの発言にふれなかった。その朝日も原発ということばをさらりと書いただけである。
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核開発に反対する 物理研究者の会通信 第42号 2006年12月 日本核武装によるアジア核戦争の恐怖 槌田 敦 からの転載です。
マスコミがこの中川発言を隠す理由は、周辺事態法との関係で深刻な問題となるからである。この法律の発動は、本格的な戦争のきっかけになる。
その場合、攻撃されても炉心熔融にならないようにするには、すべての原発の運転を止めなければならない。
このように面倒な問題になることを予感して、マスコミは中川発言を消してしまったものと思える。
【2.失敗した核実験】
北朝鮮の核実験は、予告した爆発規模の4キロトンに比べて1キロトンと小さいことから技術的には失敗であったことが分かる。技術も経験もない段階で、最初から小さな原爆を作ることは難しい。したがって、今回の核実験は大きな核爆発装置の不完全核爆発であったと思われる。
核爆発に使用できるプルトニウムには2種類ある。@普通の原子炉で作る原子炉級プルトニウム(Pu239は60%程度)とA特殊な原子炉で作る兵器級プルトニウム(Pu239は96%以上)である。ウラン238に中性子が当たると核分裂可能なPu239ができるが、これに中性子を当てつづけるとPu240、Pu241などの不純物になってしまう。そこで、Pu239を高濃度で得るには、中性子があまり当たらないように工夫する必要がある。
兵器級Puは、多くの国では黒鉛炉で作る。北朝鮮にも小型の黒鉛炉があるが、熱出力は5千キロワットと小さいから、兵器級Puをごくわずかしか製造できない。北朝鮮がこの貴重な兵器級Puを今回の実験で使い果たしてしまうような馬鹿なことをする筈がない。
今回程度の不完全な核爆発ならば、兵器級Puを用いる必要はない。比較的多量に得られる原子炉級Puを使えば、小規模の程度の核爆発は可能で、世界を脅すには十分である。日本のマスコミは、まんまと北朝鮮の思惑にはまってしまった。
【3.テロ集団の核爆発】
原子炉級Puを使う核爆発は簡単である。臨界に関する多少の知識があれば、JCO臨界事故を参考にして、この臨界を核爆発にまで高めればよい。
まず、プルトニウムを臨界にならない大きさのいくつかに分けて、離しておく。これを火薬の爆発で一気に集めれば臨界に達して核爆発する。ここで核燃料が飛び散れば核爆発は終了するので、この飛散を火薬の爆発圧力で抑えれば、強力な核爆発となる。
アインシュタインは、ルーズベルト大統領に原爆開発を訴えたが、その手紙には、原爆のイメージが書かれている。この原爆は大きくて、飛行機には積めないかも知れないが、船で運んで港湾を破壊できると書いてある。
つまり、テロ集団が原子炉級Puを手にいれれば、アインシュタインの提案どおりの船で運べる核爆発装置を作ることができる。だから、アメリカは、兵器級Puはもちろん、原子炉級Puであってもテロの手に渡ることを恐れているのである。
実際の原爆の構造は図1のようになっている。ウラン原爆では大砲を使った。大砲の底には火薬を積めてウランの円柱を置く、先端にウランの円筒を置き蓋をする。火薬を爆発させるとウランの円柱がウランの円筒にはまり、臨界になって、核爆発する。
プルトニウム原爆も、最初の設計では大砲型だったという。しかし、大砲の大きさは巨大になってしまう。それだけでなく、プルトニウムの場合は、後に詳しく述べるが、円柱が円筒にしっかりとはまる前に、自発中性子によって事前臨界になり不完全に核爆発してしまう。
そこで設計が変更されて、図2のように、プルトニウムを中空の球体にし、その周りを火薬で包んで爆発させるという構造になった。しかし、火薬の爆発でプルトニウムを均質に集めることができなければ、不完全な核爆発となって、失敗することになる。
この核爆発に自信のなかったアメリカは長崎型爆弾と同じ大きさの火薬だけの大型爆弾(5トン)を50個も作って、日本の地方都市にばらまいた。この原爆が失政しても5トン爆弾のひとつとごまかすことにしたのであった。
この方式は、後に、プルトニウムを臨界にならない大きさの球体にして、これを強力火薬で包み、火薬の爆発圧力でプルトニウムの体積を半分にするまで圧縮して、臨界にする爆縮という方法に変わった。これによりプルトニウム原爆は、爆発力1キロトン以下で、直径15センチ程度の小型原爆ができることになった。
テロにはこのような爆縮による高性能の小型原爆を作る能力はない。テロが作る爆発装置はやはり大砲型で、プルトニウムを臨界にならない大きさの多数個に分けておき、これを火薬で一気に集めて臨界にして爆発させることになる。しかし、この大砲はとても大きくなってしまう。
北朝鮮の作った爆発装置はこの程度のもので、おそらく10キロトンを目標にしたが、4キロトンしか出せないかも知れないと考えて、これを予告したのであろう。そして結果は1キロトンだったのである。
ところで、北朝鮮は住居不明のテロ集団ではない。北朝鮮が今回の実験ような爆発装置を船で運んで外国で使用すれば、直ちに大量報復攻撃されて、北朝鮮政府は崩壊することになる。
北朝鮮を報復攻撃するには、地上戦争も、核兵器も必要ではない。軍と政府と交通網への通常兵器による集中爆撃だけでよい。イラク戦争でアメリカが電撃的に地上戦争をした理由は、イラクのどこかに隠している筈の大量破壊兵器を見つけだし、またはこれを使用させて、イラクの反社会的意図を明らかにしようとしたからであった。
したがって、北朝鮮は、得意の地上戦争ならばともかく、集中爆撃による大量報復攻撃には対抗できないから、この大型の核爆発装置を所有しても、安易には使うことができないのである。
今回、北朝鮮のこのような核実験にあわてふためくことはまったく馬鹿げている。
【4.原子炉級Puでは原爆が作れない理由】
プルトニウムには5つの同位体がある。そのうち、核分裂する同位体は、奇数の質量数のPu239とPu241である。通常の原子炉で作ると、Pu239は58%、Pu241は11%程度の原子炉級Puが得られる。残りの31%はPu240などの不純物である。
プルトニウム同位体(半減期)
Pu238 (86年) 自発核分裂 中性子吸収
Pu239 (2万年) 核分裂
Pu240 (7千年) 自発核分裂 中性子吸収
Pu241 (13年) 核分裂
Pu242 (40万年) 自発核分裂 中性子吸収
そこで仮に、原子炉級Puで核兵器を作ったとしても、これらの不純物同位体によって、次のような7つの本質的欠陥を持つことになる(●印は重要)。
●@ 不純物の自発核分裂で発生する中性子により、臨界が早まり、不完全爆発になる
Puの同位体には、上の表に示したように質量数が偶数Pu238、Pu240、Pu242がある。これらの同位体は自発的に核分裂して、中性子を常時放出している。したがって、原子炉級のPuを使用すると、この自発核分裂の中性子によって予定よりも早く臨界が始まり、不完全に核爆発してしまう。
これによりPuが飛び散ってしまえば核爆発はそれで終了するから、原子炉級で作った原爆は今回の北朝鮮の核実験のように威力はない。
A 不純物による中性子吸収で、中性子が消費されるので、大量の核燃料が必要となる
Pu239に中性子が衝突すると、核分裂して中性子を3個程度発生するが、これが次々と核分裂して連鎖反応になれば臨界状態を経て核爆発となる。しかし、その中性子が不純物の原子核に吸収されて減ることになれば核爆発しない。
B 巨大になれば、搭載できる巨大爆撃機がない。巨大ミサイルでも運べない
不純物で中性子が減っても、核燃料を大量に使えば核爆発可能である。しかし、火薬も大量に必要となり、またこれを包む鉄の量も増える。
したがって、不純物の多いPuで作った原爆は巨大になる。この巨大原爆は巨大ミ サイルでも運べないから、核兵器とは言えない。単なる核爆発装置である。
●C Pu241は核爆発に使えるが、半減期が短く、すぐに劣化する。
Pu241は奇数の質量数なので、これも核分裂する。このことは有利に見えるが、半減期は14年でしかない。その結果、すぐに劣化して核爆発しなくなる。原爆は作ってすぐに使う兵器ではないから、これでは役にたたない。
そこで、保存している原爆が実際に核爆発するのかどうか確かめる必要が生じて、アメリカは核実験を続けたのである。
●D 不純物の出すガンマ線で、制御用電子回路が劣化変質する
制御用の電子回路が劣化変質したら、不発弾になるだけでなく、貯蔵中に核爆発するかも知れない。
E 不純物の出すガンマ線で、製造時や運搬時での作業者の被爆
半減期の短いPu同位体は、ガンマ線を大量に放出する。この被曝問題は兵器としての製造と使用を制限する。
F 不純物Puが発熱するから、常時冷却する必要がある。
長崎原爆を手で触った人の印象として、「まるで生きたうさぎのようだ」という記録がある。不純物のプルトニウムの発熱で、火薬に引火すれば保存中の爆発という危険があり、また火薬が早期に爆発して、不完全核爆発の原因にもなる。
このように多数の欠陥があっては、この核爆発装置を兵器として使うことはできない。事実世界には、原子炉級Puで作った原爆はひとつもない。1/21
その2に続く
7/1/26

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