■ 金利上昇政策で困ること
ノーコストの金利上昇政策で「デフレ不況」から脱却できるのであれば、なぜ、政府・日銀はそのような政策を採らないのかという疑問が提示されるであろう。
さすがに、金利政策の変更だけのノーコストで「デフレ不況」から脱却できるわけではない。
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● 大量の国債を保有する銀行
金利が上昇すると、必然的に国債の利率も上昇する。
そして、低利の既発国債は、利回りが上昇=価格が下落することになる。
低金利の既発国債を大量に保有している銀行は、厖大な国債評価損を抱えることになる。
ただでさえ財務状況が厳しい銀行は、その評価損で債務超過に陥る可能性がある。
そのような銀行は、公的資金を投入して国有化するのがベストであるが、突然の政策変更であることを考慮し、金利上昇に伴う既発国債の評価損分までは、国有化につながらない優先株でしかも配当を義務づけないというかたちで公的資金を投入してもいいだろう。
このような問題や諸外国との金利差という問題もあるので、高金利といっても公定歩合でまず2%を目指し、現在の0.5%から0.25%刻みで様子を見ながら段階的に引き上げる。
もちろん、公定歩合の上昇に応じて、貸し出し金利を引き上げるとともに預金金利を引き上げる。
● 高金利=インフレでいちばん困るのは勤労者であり放置すれば「大不況」に陥る
国債問題以外にも、「デフレ不況」下で貸し出し金利を上げれば、企業の金利負担が増大し収益が圧迫され、さらに銀行の不良債権を増やすことになるのではないかという危惧もあるだろう。
しかし、その懸念は歴史的に不要であることはわかる。
ほとんどの大企業が借金を背負いながら事業を営んでいるのだから、金利が上がれば、商品価格も引き上げることになり、物価指数が上昇することになる。
過剰債務で元利が返済できない状況になっている企業は、どのみち返済できないのだから、しばらくは返済の猶予と追加融資を続けるしかない
問題になるのは、価格支配力に乏しい中小企業や給与に生活を依存している勤労者である。
中小企業は、貸し出しそのものを受けにくい立場にあるが、貸し出しを受けられるとしても、そのコストを大企業への納入価格に転嫁しずらい立場にある。おそらく、大企業の販売価格が上がった後に、中小企業の納入価格が上がるということになるだろう。
最大の問題は給与所得者である。今年の春闘を見てもわかるように、ベースアップ0が続出し、5%の賃下げまで提示している大企業さえある。
このような状況で商品価格を上げると、購買力がそれについてこれないという事態が発生する可能性が高い。
ただでさえ将来に不安を抱えている人が多いのだから、物価上昇がより深刻な“不況”を招くことになる。
それを防止するために、金利上昇政策と同時に、標準家庭で年収800万円未満の勤労者の所得税減税を実行する。年収が低い人ほどより多くの減税が行われるようにする。
そして、それを国債発行でまかなうのではなく、800万円以上の所得者に対する増税でまかなう。
この所得税変更は、2年間だけでもいいし、高所得者がどうしてもイヤだというのなら1年間だけでもいい。
物価が上昇し、経済活動が活発になれば、来年にはベースアップが行われるであろう。
本当は、1年間だけでいいから、企業が借金をしてでも、本給の5%くらいの特別手当を支給するというかたちがベストである。
しかし、「総論賛成、各論反対」の企業経営者たちは、そのような“国益”=“企業益”に適う策を採らないだろう。
もう一つの心配は、物価上昇が国際競争力を低下させるのではないかということである。
これも、大企業は、国内では高く売り、輸出は安くするというこれまでの企業行動で乗り越えられる。
このような意味からも、金利上昇政策でデフレから脱却できるチャンスは、日本(企業)が「世界の工場」の役割を担っているあいだしかない。
※ 金利上昇政策で最大のネックになるのは、米国との金利差であろう。日本のほうが金利が高ければ、米国に資金が環流しにくくなるからである。
この問題は、“政治的に解決すべき”だと考えている。
>金利引き上げたら国債持ってる銀行とかヤバくない?
ただでさえ、不良債権を抱えるとともに「デフレ不況」のために貸出先も限定されている銀行は、金利が上昇することで保有既発債の評価損が生じて、ヤバくなります。
公定歩合が2%になれば、長期国債の利率は、およそ3.6%になると思われますから、利率1.4%程度の現在保有している長期国債の評価は、現在価値の78%になるでしょう。
長期国債を80兆円保有していれば、評価額が62.4兆円となり、17.6兆円の評価損が発生します。このようなことから、現在の公定歩合0.5%を一気に2.0%に引き上げるのではなく、様子を見ながら0.25%刻みで引き上げます。
そして、「デフレ不況」対策のための突然の政策変更ですから、国債保有に伴う評価損でヤバくなった銀行には、国有化につながらない優先株で資金注入を行います。
(このまま「デフレ不況」が進めば、不良債権がますます増え、「大手銀行救済」を第一義的に考えている政府は、厖大な公的資金を投入せざるを得ません。そして、それでも、問題は解決できません)
現在、財務省は、このような意図的な金利上昇ではなく、“不測”(国債の需給バランスが崩れること)の金利上昇に備え、銀行の保有国債をできるだけ短期のものに変えようとしています。
これが進めば、長期金利が上昇したときに必要な銀行への公的資金注入は低く抑えられることになります。
(超金融緩和状態は公定歩合を上げても変更する必要はありませんから、“不況下”で他にはなかなかない短期かつ安全な投資先である短期国債の利率はそれほど上昇しないと思われます)
国債の評価損がカバーしてもらえるのなら、貸し出し先が拡大し貸し出し実質利率も上昇する「デフレ不況」から脱却できる金利政策の変更は、銀行にとっても有利なものです。
銀行の経営が現在苦境に陥っている最大の要因は、既存の不良債権ではなく、最大の収益源である貸し出しができないことにあります。
(銀行は、今、新たに貸し出しを行えば、新たな不良債権を生み出すという危惧を持っているからです)
“不測”の事態でインフレが発生すれば、銀行も大損を被り、インフレの制御もできなくなります。
社会政策のために否応なく国債を大量の発行しなければならなくなり、ハイパーインフレになります。その後で、「新円切替」という荒療治になるでしょう。
このまま「デフレ不況」が進めば、5,6年で必ずそうなります。
「デフレ」は、一日でも早く手を打ったほうが脱却しやすいし、遅れれば遅れるほど脱却が難しくなり、“不測”による脱却であればとんでも災厄をもたらすことになります。
>金利引き上げたかったら、インフレにするのが先だろ…
「インフレにする」ことがいかに大変なことなのかは、この5年ほど“デフレ解消”を叫びながら実現できていないことでもわかると思います。
インフレにしたいとかインフレターゲット政策を実施すると言っても、インフレにはなりません。
また、日銀が、じゃんじゃん日銀券を印刷し、商業銀行にどんどん貸し出しをしたからといってインフレになるわけではありません。
これは既に現状に近いもので、日銀と商業銀行の間に日銀券が貯まるだけになります。
企業も、需要拡大が見えないのに、生産設備を増強するために借り入れを行うことはありません。
表面金利は低くても実質金利は高く、デフレが進むということは、実質金利がより高くなることなので、借り入れは危険な経済行為です。
(政府が国債を発行してお金を国民にばらまいても、一時的な消費拡大にはつながりますが、インフレになるかどうかはわかりません。このような手法で持続的なインフレにしたければ、政府がばらまきを続けなければならないことになり、それを行えば、財政が破綻し、通貨の信認性が失われることになります)
本当は、経団連などが音頭をとって、上場企業が個別利益志向を乗り越え大幅ベースアップを行えば、デフレを解消する近道になるのですが、個別利益にしがみつく人たちなのでそうはしないだろうということで代替として「金利上昇政策と所得税制変更のミックス」を提起したわけです。
(給与が高くなれば、金利上昇と同じようにコストアップになりますから、製品価格は上げざるを得ません。経団連の音頭ですから、みんなが製品価格を上げるでしょう。そして、製品価格が上がっても給与も上がっているので、需要はちゃんとあります。中国製品と言っても、中国企業が日本で商売しているわけではなく、日本企業が輸入して販売しているので、日本の製造コストが上がっても今のところは問題ありません。中国から輸入して販売している製品は、全般の価格上昇のおかげでより多くの利益が得られるということです。流動性不足のためにベースアップできない企業については、経営内容を精査して存続が可能と判断されれば、ベースアップ分についてのみ政府保証で融資を受けられるようにします。このような政策も、中国企業が自前で日本市場向けの商売をするようになってからでは遅きに失することになります)
7/2/28

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