まず、貿易収支に関するこれまでの説明が不十分であったことをお詫びさせていただきたい。
通説や自分が築いた観念に囚われてはいけないと警告したり自戒しながら、それに囚われてしまっていた。
貿易に関するこれまでの説明は、純輸出(輸出額−輸入額)=貿易収支黒字にこだわったものだったが、それでは経済活動の規定論理を説明することができない。
貿易や外需について、純輸出はGDPに占める比率は2%に過ぎないからたいした問題ではないという説明をする人たちもいる。(貿易収支黒字10兆円/GDP500兆円)
しかし、あれこれマクロ経済の考察を進めていくなかで、日本経済は15%ほどのウエイトで輸出に支えられていると考えたほうがいいことがわかった。
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貿易収支の新しい理解:日本経済は輸出に15%も支えられている!:韓国や中国が苦しい経済論理投稿者 あっしら 日時 2004 年 9 月 09 日
■ 貿易に関する基本
通説のように「純輸出」で貿易の経済効果を考えるのは、貿易が国民経済内で原材料からすべて生産された最終消費財の相互取引であるときにのみ有効なものである。
現実の貿易は、原材料・中間財・資本財・最終消費財など経済的性格が異なる財が取り引きされている。
戦後高度経済成長期の特徴である加工貿易を突き詰めると、原材料を輸入して中間財や資本財を国内で生産しながら最終消費財を輸出というものである。
鉄鋼業であれば、鉄鉱石を輸入し、石炭(後には輸入)から生産手段そして労働力は国内で調達する。
動力源や輸送の問題もあるから、原油なども鉄鋼の生産活動に不可欠であることも考慮する。
鉄鋼はすべて輸出されるものと仮定し、
鉄鋼生産に投入される輸入財金額:150
生産された鉄鋼の輸出金額:800
と想定する。
800という輸出金額は、「輸入額150+製鐵会社「仕入れ」+製鐵会社人件費+製鐵会社減価償却+製鐵会社利潤」に分解できる。
※ 減価償却は、輸出された鉄鋼の量に対応した減価償却費。400の金額の鉄鋼を輸出するために生産設備の耐用期間の1/10000を使うのなら、生産設備金額の1/10000の金額。
製鐵会社の「仕入」は、他の会社の「輸入額+「仕入れ」+人件費+減価償却+利潤」を意味だから、「仕入」は、連鎖の最終形態として「輸入額+人件費+減価償却+利潤」に集約できる。
日本のGDPを考えたとき、「人件費+減価償却+利潤」がその構成要素=付加価値である。
輸入額は、他の国民経済のGDPを構成するものであり、輸入しただけでは日本経済には直接関わらないものである。
ここでは、800の鉄鋼輸出で使った輸入財が鉄鉱石の他に50があり合計200の輸入だったとする。
この鉄鋼の生産と輸出で形成された付加価値(GDPの構成要素)は、輸出価格800−輸入額200=600である。
ミソは、鉄鋼生産のために輸入した財は、輸出で国外に出てゆくということである。
端的には、輸出財の生産のために使われた輸入財は、輸入がなかったと考えることができる。(輸入代金が支払えるかどうかが問題になるだけで、GDPや国民所得には無関係ということ)
違う視点から言えば、鉄鋼の生産のために輸入した財の代金は、鉄鋼を輸入する国民経済が支払ってくれるということである。
これを一般化すると、輸出された財に使われた輸入財は輸入金額から控除できることを意味する。
別の表現を使うと、輸出された財に使われた輸入財は、国内に残らないという意味で中継貿易ないし「再輸出」の対象になった財と同じである。
■ 輸出と輸入の差異性
輸出と輸入は、たんに方向性が違うものと考えられがちである。
輸出は財が国外に出てゆく代わりにお金が国内に入ってくるもので、輸入は財が国内に入ってくる代わりにお金が国外に出てゆくものという理解である。
しかし、輸出の理解はそれでいいが、輸入は、前述のように、お金が国外に出てゆくことは確かだが財は国内にとどまるとは限らない。
輸入財は、まず、生産(供給)活動に投入される財とそのまま消費される財に区分する必要がある。
仮に、43兆円の輸入のうち30%が生産活動の中間投入に使われるものなら、
生産(供給)活動に投入される輸入財:13兆円
そのまま消費される輸入財:30兆円
と区分できる。
(原油なども、生産活動のエネルギーや輸送に使われる部分は、生産(供給)活動に投入される輸入財と考える)
生産(供給)活動に投入される輸入財(13兆円)の25%が輸出財の生産に使われているのなら、輸入金額のうち3.3兆円は“再輸出”されていることになる。
(3.3兆円の輸入金額は輸出先の国民経済が支払うから、日本は無関係で、輸出先が輸入元に支払ったと考えることができる)
輸出金額が55兆円だとすると、輸出で形成された付加価値は、55兆円−3.3兆円=51.7兆円ということになる。
輸出で形成された51.7兆円の付加価値は、人件費(雇用者報酬)と営業余剰に分解することができる。
GDPは付加価値の問題なのだから、日本は輸出で51.7兆円の付加価値を生産していることになる。
※ 日本のGDPは500兆円といわれているが、ネットのGDPは340兆円程度だと推定しているので、51.7兆円の付加価値(GDPの「総生産」)は15.2%のウエイトを持つことになる。
(ネットのGDPはずっと少ないという事実は、日本に限らない話であり、GDPの算定方法(SNA)によるズレである。“二重計上”されている金額を削ぎ落としていけば340兆円程度になる。輸出は削ぎ落とす必要がない純粋な付加価値なのでそのまま残り、51.7兆円はネットGDPに対し15.2%の比率になる。もっと言えば、財の生産活動から得た可処分所得が家計向けサービス業の付加価値を形成しているという側面が強いので、輸出で形成される付加価値51.7兆円は、実質的には20%を超える重みを持っているはずだ。このGDP問題は、別の機会に改めて説明したいと考えている)
そして、この51.7兆円の付加価値が、家計可処分所得・政府部門税収・企業内部留保として分配され、家計可処分所得と政府部門税収はある割合で消費に使われることになる。
“再輸出”されなかった生産投入分やそのまま消費される財の輸入(39.7兆円)は、GDPを考えるとき、「総生産」にはほとんど関係なく「総支出」に関わることになる。
生産に投入された分は最終財の価格の一部になるが付加価値を形成するわけではない。輸入消費財は、流通マージンを別として日本で付加価値が生産されることはなく、日本で生産された付加価値から支払われる(購入される)だけの財という性格を持つ。
※ 輸入財については、「最終販売価格−輸入価格」が国内で生産される付加価値で、それはGDPの「総生産」に加算される。
このように、輸出と輸入は性格が異なり、「輸出額−輸入額」で算定される純輸出(貿易収支)は、輸入代金が支払い可能かどうかに関わるだけで、GDP(付加価値生産)と直接の関係があるわけではない。
※ 「輸出額−輸入額」は、輸出で形成される付加価値(「輸出額−輸出財に投入された輸入財額」)−「国内消費輸入財額」という内実である。
輸入額については、「輸出額−輸出財に投入された輸入財額」(国内生産付加価値)が、国内消費輸入財の“上限額”であると考えたほうが理に適っている。
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