「美青年」
あなたが一世を風靡したのは五年前
私の世代 みんなあなたに夢中だった
一瞬 好きでいてくれたような気がした
一瞬 子供を作って逃げようと言ってくれたような気がした
春が来て夏が来て秋が来て冬が来て
春が来て夏が来て秋が来て冬が来て
春が来て夏が来て秋が来て冬が来て
春が来て夏が来て秋が来て冬が来て
時代の色も変わるころ
美青年の君が 激しい恋をしているのを知る
あなたは王様
あなたの色気が衰えたなんて 誰も思いはしないだろ
ただ君の相手が まだ二十歳なだけ
人はどこまで行っても片思いをする
美しく過激な花 片思いで しくしく心を痛める
斜陽の季節
ざまみろなんて思わない
セクシーでならしたあの子が片思いするサッカー部のキャプテンは
ミス女子大に片思いし
セクシーでならしたあの子がミス女子大の紅茶に
毒薬を入れようと目論むころミス女子大はJリーガーに片思いし
JリーガーはJJモデルに片思い
JJモデルはメジャーリーガーに片思いしてる
一世を風靡した美しい俳優は二十歳の役者志望に片思い
どんな美しい花にも神様は恋の苦しみをお与えになった
俳優にかつて恋したわたしは
二十歳の役者志望をねたんだりしない
私はあの人を好きだった
あの人だけじゃなかったけど
あなた、あの時たしかに時代はあなたのものだった
かつての美青年 いまでも美青年
希代の色男
二十歳にしてみりゃ ただの叔父さん
誰しも持つ 自分以上を求める傲慢さ
誰が あの美しい俳優を笑えるのか
誰しも 一度は 片思い

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