何年も前、上野のほうでOLをしていました
今でも思うのです
あの会社のあったX町は、半分以上がこの世にいない人だったんじゃないかって
忘れられないのは昼に行ったすし屋
隣の席の親父は私の顔を見るなり
ぐにゃりと顔が替わって
"道ならぬ恋、別れさせ屋に電話して
金を半分払ってやめたんだよな
生半可なことなんて するもんじゃねえぜ"
店を慌てて出れば、マツダサバンナとかスバルレオーネ、ギャランシグマがニヤリと通っていった
駅の向こうのキャバレーは
ネットで見れば とっくに営業停止してたはずなのに
あの頃確かに毎晩 外からもわかるほど
店内にレーザーの光が交錯して
色とりどりの女たちが入り口にいた
ひとりもんでも ホテル街は怖くなかった
ひらりひらりとホテルに消える男女が
みな 結ばれた仲でないのがひと目でわかったからさ
映画や言い伝えでは、幽霊は一人でさみしいから
生きている人に取り憑くという
生きている人に取り憑いたって寂しいだけさ
生が眩しくて きっと 悲しくなるだけなのさ
ゆうれいは ゆうれいと出会って
ゆうれいのみんなが 作ったのがあの町だ
生きてても死んでても一緒
ビー玉の袋をぶちまけたように
浮かばれないたましいがふらふらお酒飲むあの町
嫌いじゃなかったあの会社
神様が一人づつつまみ出すように
いろんな人が突然行方がわからなくなる会社
生きてても死んでても一緒
浮かばれないのさ
みんな 消化できない衝動をなだめて膿んじゃった本能かかえて
派手な女と目が合えば たちまちケンカの女王蜂
警察なんかくるもんか
けんかと拍手とキャバレーと
やくざと飲み屋と職人と
あの魂の吹き溜り

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