帰ってきた虎の子。山口県で釣りしたり、お絵描きしたり。
※現在、絵仕事は休止中です。
【オリジナル小説】恋慕色のエメラルドオーシャン  自作小説

 ろりこんばんわ。肩こりMAX、勇者マックスな虎の子です。なんのこっちゃ。

 3月に某サイトへ投稿して、批評を受け手直しした作品です。
 シャワー浴びてるときに5分で考えた内容。たいていのネタはシャワー浴びてるときがよく出るネ。

 十数分で読める程度の長さなのでお気軽に読んでみてください。あんまりラノベっぽくはないけども。
 pixivにもUPしてます→「恋慕色のエメラルドオーシャン」

 ブログでは読みづらいかもですが、続きからどうぞ〜。


 私は今、海の中にいる。
 肌を覆う柔らかく温かな水。海面を漂う波と、湧き上がる無数の泡が奏でる心地よい音。初夏の光は乱反射して、私の目に映る世界を明るく彩っていた。
 賑やかなのは生物も同じ。小さな魚は大勢で機敏に。大きな魚は個別で優雅に、海中を行き来していた。
 私は心躍る。まるでお祭りのような海中、自由に……自由自在に泳いでいるのだから。
 そう、もはや私は魚と同じ。半人半魚の人魚なのだ。
 人間の脚はとうになくなり、私の下半身は魚体そのもの。膝も踵も爪も変化しきって、代わりに大きな尾ひれがくっついていた。
「上も脱いじゃっていいわよね。もう戻ることなんてないんだから」
 脱ぎ去ったTシャツは捕まえ損ねた魚のように、沖へと流れ逃げていった。
「ん〜っ! 開放感!」
 着ている衣服はビキニのトップスのみとなり、さらなる身体の自由が生まれる。
 無駄なことは考えなくていいことと、テレビでしか見たことがない輝く世界の真ん中にいるみたいで、これから旅立つことへ期待も高まった。
 これまでを過ごしてきた陸上に別れを告げ、私は大海原へと尾を翻す。道は広く、ただし一直線に。

 岸からだいぶ遠ざかったけど、まだまだ体力には余裕があった。
 上手く潮流に乗れたようで、身軽に推進力を得ることができている。数年前までは海に流れがあることなんて知らなかったけど、七樹のおかげかな。まさかこんなところでアイツのうんちくが役に立つとは思わなかった。
 もはや海底すら見えなくなり、目にする魚の数も減っている。
「あ! 魚の大群! あれはイワシかな?」
 これまでに見惚れた綺麗な魚とは対照的な、全身銀色の地味な魚。スーパーでパックに包まれたのは見慣れていたけど、高層ビルを丸ごと包み込むほどの巨大な大群に出会ったのは初めてで興奮する。
「こんにちは」
 大群を形成するくらいなので臆病な魚かとも思ったが、意外にも散開することなくすれ違う。私は昔から猫にも犬にも懐かれたことはなかったから、興奮が感動へと劇的変化。友達がいっぺんに何千何万と増えたような気分になった。
 そこでイワシさんたちは何やら私を取り囲み、魚体をくねらせヒラをうつ。
 まるで銀の万華鏡に閉じ込められたようで、眩しいくらいの日光が次々に私の体へ降り注ぐ。
「応援してくれてるの? ありがとう!」
 人魚初心者の私にこんなに優しくしてくれて嬉しかった。これが異文化コミュニケーションというものなんだろう。これからかの地を目指すのには最高の状態となる。
 目標は遙か遠く、七樹の所。
 私をほったらかしにして出て行った、七樹の所。
 人見知りが激しい私に対して、大学で優しくしてくれた唯一の人だ。
 ある日、アメリカで人魚が目撃されたというニュースが世界的に報道され、私と七樹の耳にも入った。
 昔から様々な魚を釣ることに熱心だった七樹は、人魚のことを徹底的に調べ上げ……その目撃情報があった外国の海へと旅立ったのだ。私を置いて。
 恋人同士だった。お互いに好き合っていた。確かに。
 七樹がいなくなってからというもの、私はひどい喪失感とやり場のない愛情で心臓が溶けそうになった。毎日毎日、七樹のことばかり考え、悩むせいで精神はズタボロ。電話もしだいに少なくなっていき、私は毎夜眠れず、涙で枕を明け方まで濡らし続けるようになったのだ。
 その頃すでに七樹の声にもこれまで通りの楽しさがなくなっていて、きっと私に飽きてきたのだと思い込むようになる。互いに影響し合って、恋人同士だという自覚すらぼやけてしまったのかもしれない。
 私は自滅し、自堕落な生活となっていったのだ。
 彼はきっと人魚に対して密かにロマンを感じていたんだと思う。男のロマンっていうのはいちいちスケールが大きくて、よくわからないけども。
 それでも帰ってきて欲しい。もしくは……会いに行きたい。
「いけない。もやもやしちゃう……」
 少しばかり水が冷たくなってきたようにも感じ、私は自らの腕で体を潜めた。

 出発してから幾日が過ぎた。
 潮流によってやや北へ流されていたのか水温は明らかに下がり、やる気も体力も底をつきかけている。
 ……というより、すでに泳げなくなり水死体となっていてもおかしくないような状態なのだ。おなかもすきすぎて胃がこぼれそう。なんとかなるだろうと思っていたけど、どうにも浅はかだったようだ。
 そのとき何か大きな魚が一尾、私の視界を横切る。
「……マグロ!」
 高速道路を走る自動車くらいのスピードで泳いではいたが、私ははっきりとシルエットを捕らえ断定。
 なぜならマグロは、私の大好物だからだ。刺身、寿司、ねぎとろ、カマ焼き……これほど日本人を満足させる味を持ち、かつ飽きない魚が他にいるだろうか。
 しかしマグロさんはイワシさんと違い、ぶっきらぼうなのか私の前を素通りしてしまう。
「ああ、とりつく島もないわ……」
 マグロは彼方へと去っていった。
 さらに気力を減退させてしまい、私の体は前に進まなくなる。
 前進どころか、私の体は鉛のように重くなったかと思うと、どんどん沈み始める。抵抗する力も出なくなり、暗黒の世界へと誘われていくほかなかった。
 宇宙船に乗って地球を脱出したならば他の星が輝き、まだ希望も持てるだろう。
 でもここは海のど真ん中。沈んでいけば闇しかない。光どころか、存在するのは得体の知れない生物たち。中には私を餌だと思い、無残に食い散らかそうと本能を働かせる者だっているはずだ。
 体にかかる水圧で窮屈になる。胸が痛い。酸素も薄いのか、少しずつ息苦しくなってきた。
 その苦しみは、私が墜ちれば墜ちるほどに増していく。逃げ出したい。苦しみから逃れたい。考えるのもいやだ。いやだいやだいやだ……。
 そこまで苦しんで……ようやく証明される。
「普通ならもう死んでてもおかしくないわ。やっぱりあのときかじった、アレのせいかしらね……」
 アレは私が人魚になった原因でもあった。
 元々七樹の家には人魚の鱗というものが存在し、奉られていた。私は七樹にそれを見せられ、かじってしまったのだ。
 噂として知っていたのは『人魚の肉を食べると不老不死になれる』というものだったから。まだ物心ついた頃のことなので、特に深い願いがあって不老不死になりたいというわけではなかった。あったのは単なる好奇心だけ。
「それが始まりだったわよね……」
 後悔はした。魚の脚に変化したことなどつい最近だったし、こんな身体で人前に出るわけにはいかない。時を問わず人間の脚に戻れる、という都合のいい機能は備わっていなかったから。
 だけどもう一生海で過ごすのなら、悔いてもしょうがない。死ぬつもりはないし、そもそも迷信通りなら今の私はサメにでも食べられない限り死ぬこともないのだろうと思った。
 それならば、
「勝手に出て行った七樹の元へ、行くしかない」
 私に掲げられる目標は、もはやそれしか残っていないと悟った。
 厚い雲は太陽を遮り、強風が船を難破させるほどに波を揺らめかせている。障害は大きく、まだどれだけの距離があるのか、どれだけの日数がかかるのか見当もつかない。
 寒い。寒くて体を動かしている気がしない。疲れ切って、意識もだんだんと遠のいてゆく……。
 だけど、七樹ともう一度――。
 私はそれだけの想いで水を掻き分けていった。

 私は指先をぴくりとも動かせず、力尽きていた。
 意識はあるが、視界にもやがかかったようで何も見えない。耳は穏やかな波の音だけを聞き取り、鼻は石か何かを蒸し焼きにしたような匂いを嗅ぎ取っている。
「ん……匂い?」
 人魚となってからというもの、水中で匂いは嗅ぎ分けたことがなかった。ということは、ここは……陸上なのか。
 気が付くと肌には熱砂の感触があった。徐々に五感が戻りつつあるようだ。
「そうだ、どこへ……どこへ着いたの?」
 か細い声に答えたのは、一人の男だった。
「アメリカだよ。歌穂」
 よかった、目的地だ。そう思ったときにハッとした。
 私の名前を知っている。それに聞き慣れた優しげな声。周囲のものに混ざった彼のこの匂いは――。
「七、樹……?」
「お疲れ様」
 次第に、私の目は追い求めた彼の像を捉えつつあった。爽やかな短い茶髪、大きく開く男らしい口。しだいに、右耳に付けたハートをかたどったピアスが見覚えのあるものだと気付く。
 これは、私が彼にプレゼントしたものだったから。
「よく私を見つけられたわね」
「歌穂の匂いがしたんだ。匂いをたどって、そして僕の夢を見つけた」
「そうね。私は今、人魚だものね……」
 少し、寂しい気がした。
「全速力で近づいたら、よく知った顔だったというわけさ。太平洋を横断してまで来てくれたんだよね。なんか、僕、すっごく感動した……それと」
 ようやく焦点を得て見つめた七樹の顔は、涙をこらえきれていなかった。涙の雨が、膝枕をされている私の頬を叩く。
「アメリカに来てからずっと寂しかった。誰も頼りにできなくて、言葉の壁は想像以上に僕を苦しめたんだ。そんなとき……歌穂が愛おしくなった。困ったことに、恋をこじらせると自堕落になるもんなんだなって初めて知ったよ。電話も少なくなったからね。歌穂は僕がどうでもよくなったんじゃないかって、疑ってしまって……そんなとき、僕の体に変化が起こったんだ」
 懺悔を聞いている途中、私はさらなる事実に気付く。
 彼はてっきりズボンを穿いているのだと思っていた。しかしそれは想像とは異なり――。
「嘘……七樹も、人魚に……?」
 服の感触だと思っていたのは、細かい鱗だった。
「ああ。僕も人魚の鱗をかじったからね。皮肉なものだよ。人魚を追っていた自分が人魚になるなんて。でも……さっきも言ったように、僕は人魚を探すことなんてどうでもよくなったんだ。歌穂、君がいてくれれば幸せだったから。それが今の夢さ」
 私の視界に再びもやがかかる。ただし、今度は自身の涙で濡れている。
「よかった……再会できたこともそうだけど、会えたところでとりつく島もなかったらどうしようかと……!」
「もうずっと一緒。永遠に……」
 私たちはエメラルド色に輝く海へと泳ぎ出す。しっかりと手を繋ぎ、離れないように。
「そういえば、人魚姫の童話ってあったわよね。あれって人魚姫が人間になろうとして起きた悲劇だけど……」
「いっそのこと愛された男が人魚になればってこと、かな」
「うふふっ、よくわかったわね」
 あまりにも息の合った会話に、海は愛の色へと染まっていくような気がした。

   【完】
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