道は黒く濡れて まっすぐに続いている
どこまでもまっすぐに
あるときは大通りになり
あるときは商店街の道になり
今ぼくの足元は路地裏である
するとこぢんまりとしたアパートの二階に
栗色の濡れた肌をした女がいた
女はぼんやりと空を見ていたが
ぼくが通りかかると夕空から目を落とした
女の指は長い
夕焼けの影法師みたいだった
女はぼくに手を振った
横に数度振ると 縦に振り
ぼくを招き入れるしぐさをした
ぼくは女の招きに応じて
カンカンと音の鳴り響く階段を登った
女は玄関を空けてぼくを入れた
両の足を上手に使って
飼い猫を部屋の奥に導くと
女はネスカフェをマグカップに入れ
白いポットの湯を注いだ
ぼくはマンガ本と小説が半分ずつきれいに並んだ本棚の前に座った
そうしてぼくは女の煎れたコーヒーをすすった
ずずとした音はまるで別人の音のように響いた
女はぼくにしなだれかかり
青い服の胸元を開いたので抱いた
抱くと女は湿ったやわらかなマグカップのように熱かった
ぼくは女を
まるでコーヒーを飲むように音を立ててすすった
栗色の女の肌はずんずんと私の中に入ってきて
ぼくの喉がすっかりと潤ってゆく
いつの間にかぼくは少し眠った
女も寝て
さらに湿った匂いのする目を薄く開けてぼくをいていた
帰り道も階段はカンカンと音を立てた
夜は明けはじめているが
道はずっと黒くしまったままだった
女は目を潤ませてぼくの背中を見ていた
窓枠には猫がいた
道は黒く濡れて まっすぐに続いている
どこまでもまっすぐに
あるときは大通りになり
あるときは商店街の道になり
ぼくの足は 今は閉店した焼鳥屋の前で少し止まり
また、歩き始めたばかりのところだ